Archive for 10 April 2006

10 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 145


 "At once," Wendy replied resolutely, for the horrible thought had come to her: "Perhaps mother is in half mourning by this time."
 This dread made her forgetful of what must be Peter's feelings, and she said to him rather sharply, "Peter, will you make the necessary arrangements?"
 "If you wish it," he replied, as coolly as if she had asked him to pass the nuts.
 Not so much as a sorry-to-lose-you between them! If she did not mind the parting, he was going to show her, was Peter, that neither did he.
 But of course he cared very much; and he was so full of wrath against grown-ups, who, as usual, were spoiling everything, that as soon as he got inside his tree he breathed intentionally quick short breaths at the rate of about five to a second. He did this because there is a saying in the Neverland that, every time you breathe, a grown-up dies; and Peter was killing them off vindictively as fast as possible.
 Then having given the necessary instructions to the redskins he returned to the home, where an unworthy scene had been enacted in his absence. Panic-stricken at the thought of losing Wendy the lost boys had advanced upon her threateningly.
 "It will be worse than before she came," they cried.
 "We shan't let her go."
 "Let's keep her prisoner."
 "Ay, chain her up."
 In her extremity an instinct told her to which of them to turn.
 "Tootles," she cried, "I appeal to you."
 Was it not strange? She appealed to Tootles, quite the silliest one.
 Grandly, however, did Tootles respond. For that one moment he dropped his silliness and spoke with dignity.
 "I am just Tootles," he said, "and nobody minds me. But the first who does not behave to Wendy like an English gentleman I will blood him severely."

 「今直ぐによ。」ウェンディは、しっかりと答えました。恐ろしい考えが頭に浮かんできたからです。「ひょっとして、お母さんは今はもう半分私達のことを諦めているかもしれない。」
 この心配な思いのために、ウェンディはピーターの気持ちがどんなものか気が付きませんでした。そしてウェンディは、ちょっと厳しい口調でピーターに言ってしまったのです。「ピーター、私達が出かけるための支度をしてくれるわね。」
 「もし君がそうしたいんならね。」ピーターは、木の実を取ってくれるように頼まれたとでも言うかのように、何気ない風を装って答えました。
 “これでお別れね”などという挨拶すら、交わされることはなかったのです。もしもウェンディがこのまま行ってしまって平気なら、ピーターだってそうなのだ、ということを見せつけてやらねば。
 でも勿論、ピーターは平気ではなかったのです。ピーターは、大人達に対して強い怒りを感じていました。いつものように全てを台無しにしてしまうのです。ですから、自分の木の中に入ると、ピーターはわざと1秒に5回もの早い割合で息をつきました。ネバーランドには言い伝えがあって、子供が1回息をつく度に大人が一人死んでしまうというのです。ピーターは復讐心に燃えて、できるだけ沢山の大人を殺そうとしたのでした。
 それからインディアン達に必要な注意を与えると、ピーターは地下の家に戻ってきました。そこではピーターの留守の間に、妙なことが起こっていました。ウェンディがいなくなってしまうという考えに我を忘れて、ロスト・ボーイズ達はウェンディに詰め寄っていたのです。
 「ウェンディがやって来る前よりも、ひどいことになってしまう。」
 「ウェンディを、行かせはしないぞ。」
 「ウェンディを、虜にするんだ。」
 「鎖に繋いでしまえ。」
 窮地に陥って、ウェンディは直感的に誰に訴えかけたらよいかを判断しました。
 「トゥートゥルズ、お願いよ。」ウェンディは叫びました。
 これはちょっと不思議なことです。ウェンディはよりによって、一番間抜けな子に助けを求めたのです。
 しかしながら、トゥートゥルズは見事にウェンディの期待に応えたのです。この時限りは、彼はいつもの鈍重さを忘れ去り、威厳のある言葉を語ったのです。
 「僕は間抜けなトゥートゥルズで、誰も僕の言うことなんか気に掛けはしないけど、」トゥートゥルズは言ったのでした。「ウェンディに英国紳士らしくない振る舞いをしようとする者がいたら、僕がひどい目に遭わせてやるぞ。」

 ネバーランドの子供達が息をつく毎に、大人が一人死んでしまうという。妖精と人間の間の不思議な関係を通して全てを包含する、宇宙の霊的構成原理となっているとされたロマン主義的精神ム物質統括機構を模倣したものであるかのように、ネバーランドのロスト・ボーイズ達と人間の大人達との間にある潜伏した因果関係が示されている。そしてピーターは、高邁な理想や倫理的目標達成のためではなく、気まぐれな復讐心を満足させるためにこの力に訴えかけるのである。

用語メモ
 panic:“パニック”、つまり“恐慌”である。これはピーター・パンの“パン”の形容詞形である。ギリシア神話の異教の神であるPanの霊的影響に打たれて、精神的混乱をきたした状態が“パニック”であった。



◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー英雄―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中




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