Archive for 12 April 2006

12 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 147


 In the meantime the boys were gazing very forlornly at Wendy, now equipped with John and Michael for the journey. By this time they were dejected, not merely because they were about to lose her, but also because they felt that she was going off to something nice to which they had not been invited. Novelty was beckoning to them as usual.
 Crediting them with a nobler feeling Wendy melted.
 "Dear ones," she said, "if you will all come with me I feel almost sure I can get my father and mother to adopt you."
 The invitation was meant specially for Peter, but each of the boys was thinking exclusively of himself, and at once they jumped with joy.
 "But won't they think us rather a handful?" Nibs asked in the middle of his jump.
 "Oh no," said Wendy, rapidly thinking it out, "it will only mean having a few beds in the drawing-room; they can be hidden behind the screens on first Thursdays."
 "Peter, can we go?" they all cried imploringly. They took it for granted that if they went he would go also, but really they scarcely cared. Thus children are ever ready, when novelty knocks, to desert their dearest ones.
 "All right," Peter replied with a bitter smile, and immediately they rushed to get their things.

 しばらく後、子供達はとても寂し気な顔をして、ジョンとマイケルと共に旅立つ支度のできたウェンディの姿を見つめていました。彼等は、今はもうすっかり気を落としているのでした。何故なら、これからウェンディを失ってしまうばかりでなく、ウェンディが自分達には手の届かない素敵なものを手に入れようとしているのを、感じていたからです。子供達は、いつものように新奇なものには強く心をそそられてしまうのでした。
 彼等よりもっと気高い心から子供達のことを思いやって、ウェンディの気持ちは切なさで一杯になりました。
 「もしあなた達も一緒に来たいと思うのなら、お父さんとお母さんにあなた達を引き取ってくれるように頼んであげるわ。」ウェンディは言ったのです。
 この誘いの言葉は、実はピーターに向けられたものでした。けれども、どの子も自分のことだけしか考えていなかったので、子供達はすぐさま喜びに躍り上がりました。
 「でも、お母さん達は、僕らのことを邪魔だと思わないかな?」跳び上がって宙に浮いたままで、ニブズが尋ねました。
 「そんなことはないわ。」ウェンディは、素早く考えを巡らして言いました。「ただ客間にベッドをいくつか余分に入れるだけでいいのよ。月の最初の木曜日には、衝立ての後ろに隠してしまえばいいわ。」
 「ピーター、僕らも行っちゃ駄目かな?」子供達は全員、懇願しました。彼等は、みんなが行くのなら、ピーターも当然一緒について来るものと思っていました。でも実際には、ピーターのことなど、ほとんど気には掛けていなかったのでした。こんな風に子供達というものは、新しく楽しいことが始まると、どんなに大切なものでも簡単に見捨てて行ってしまえるものなのです。
 「構わないさ。」ピーターは、苦々し気な笑みを浮かべて言いました。そしてすぐさま、子供達は自分の荷物をまとめに飛び出して行きました。

 子供達は飽くまでも自己中心的であり、他者への思いやりを持つことは決してない。子供達を支配する行動原理は、世界の総ての調和に帰する奥深い洞察に満ちたものなどでは決してなく、常に刹那的で断片的で恣意的なものに過ぎない。ここでは、純粋な子供の心性の中に全てを救済する不可思議な力を見出そうと夢想したロマン主義的な幻想が、極めてドライに否定されている。

用語メモ
 novelty(新奇):子供の心にとって世界が驚異に満ちた魅力的なものであり得るのは、目にするものの全てが“novelty”として受け入れられるからである。しかし自分のとる行動に対する責任や、自分に喜びを与えるものの判断基準に対する疑念や、なによりも自分が今生きる喜びを感じられるか否かという自省の気持ちをそのものを抱いた途端、この“novelty”はあっけなく失われてしまうのである。



◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー英雄―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm




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