Archive for 14 April 2006

14 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 149


 But he was far too proud for that. "If you find your mothers," he said darkly, "I hope you will like them."
 The awful cynicism of this made an uncomfortable impression, and most of them began to look rather doubtful. After all, their faces said, were they not noodles to want to go?
 "Now then," cried Peter, "no fuss, no blubbering; good-bye, Wendy"; and he held out his hand cheerily, quite as if they must really go now, for he had something important to do.
 She had to take his hand, and there was no indication that he would prefer a thimble.
 "You will remember about changing your flannels, Peter?" she said, lingering over him. She was always so particular about their flannels.
 "Yes."
 "And you will take your medicine?"
 "Yes."
 That seemed to be everything, and an awkward pause followed. Peter, however, was not the kind that breaks down before other people. "Are you ready, Tinker Bell?" he called out.
 "Ay, ay."
 "Then lead the way."
 Tink darted up the nearest tree; but no one followed her, for it was at this moment that the pirates made their dreadful attack upon the redskins. Above, where all had been so still, the air was rent with shrieks and the clash of steel. Below, there was dead silence. Mouths opened and remained open. Wendy fell on her knees, but her arms were extended toward Peter. All arms were extended to him, as if suddenly blown in his direction; they were beseeching him mutely not to desert them.
 As for Peter, he seized his sword, the same he thought he had slain Barbecue with, and the lust of battle was in his eye.

 でも誇り高いピーターが、そんなことをできる筈はありません。「もしもお母さんを見つけることができたら、自分のお母さんが気に入るといいね。」ちょっと無気味な声で、ピーターは言ったのでした。
 ピーターの言葉のこの皮肉な響きが、子供達を落ち着かない気持ちにさせました。多くのものは、いぶかし気な顔つきになりました。結局、このネバーランドを立ち去ってしまうなんて、間抜けなことじゃないんだろうか?そんな顔でした。
 「それでは、無駄な騒ぎは無しだ。さようなら、ウェンディ。」こう言ってピーターは、元気よく手を差し出しました。あたかも、これからしなければならない用事があるので、さっさと別れてしまいたい、とでもいうかのようです。
 ウェンディは、ピーターの手を握り返すしかありませんでした。握手より指貫の方が良い、などという様子は全くうかがえませんでした。
 「ちゃんと肌着を取り替えるのよ、ピーター。」直ぐには立ち去ろうとしないで、ウェンディが言いました。ウェンディは、いつも子供達が肌着を取り替えることに気を配っていました。
 「分かったよ。」
 「それから、お薬をちゃんと飲んでね。」
 「分かった。」
 これで、別れの挨拶も尽きてしまいました。落ち着かない沈黙が、後に続きました。でもピーターは、他人の見ている前で情に挫けてしまうような子ではありません。「準備はいいかい、ティンカー・ベル?」ピーターは、呼び掛けました。
 「いいわよ。」
 「じゃあ、連れて行ってやってくれ。」
 ティンクは、近くの木めがけて飛んで行きました。けれども後に続くものは、いませんでした。何故なら、この時海賊達が、インディアン達に対して凄まじい襲撃をかけたのです。これまで静寂が立ちこめていた地上では、今は悲鳴と剣を打ち合う音が響き渡っていました。地下の家では、みんなが口を開いたまま、しんと静まり返っていました。ウェンディは、跪きました。両手はピーターの方に差し伸べられています。みんなの手が同じようにピーターの方に差し伸べられていました。あたかも、突然こっちの方に吹き寄せられたとでもいうかのようです。子供達は、ピーターに自分達を見捨てないように懇願しているのでした。
 ピーターは、剣を手に取りました。バーベキュー船長を殺したのと同じ剣のはずです。戦いを求める怪しい光がピーターの目に浮かび上がっていました。

 ピーターにとっては、後悔やためらいはあり得ない。全てが自分の意の通りになるばかりでなく、今思う通りに、以前からなっていたことになってしまうからである。時間性と因果関係性に束縛されることのない、超越的万能性の祝福を受けた特権的意識がピーターなのである。

用語メモ
 noodle:“noodle head”ともいう。頭が“麺”であるというのは、馬鹿とか、“間抜け”ということになる。ネバーランドから現実世界に回帰し、お母さんと実社会の人間としての人生を手に入れる、という誘惑に屈することは、結局は大しくじりであったかもしれない、というこの解釈はこのお話の裏の主題となっている。映画「フック」では、こちらがメインの主題となっていた。





◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー英雄―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm





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