Archive for 15 April 2006

15 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 150


Chapter 12
THE CHILDREN ARE CARRIED OFF

 The pirate attack had been a complete surprise: a sure proof that the unscrupulous Hook had conducted it improperly, for to surprise redskins fairly is beyond the wit of the white man.
 By all the unwritten laws of savage warfare it is always the redskin who attacks, and with the wiliness of his race he does it just before the dawn, at which time he knows the courage of the whites to be at its lowest ebb. The white men have in the meantime made a rude stockade on the summit of yonder undulating ground, at the foot of which a stream runs, for it is destruction to be too far from water. There they await the onslaught, the inexperienced ones clutching their revolvers and treading on twigs, but the old hands sleeping tranquilly until just before the dawn. Through the long black night the savage scouts wriggle, snake-like, among the grass without stirring a blade. The brushwood closes behind them, as silently as sand into which a mole has dived. Not a sound is to be heard, save when they give vent to a wonderful imitation of the lonely call of the coyote. The cry is answered by other braves; and some of them do it even better than the coyotes, who are not very good at it. So the chill hours wear on, and the long suspense is horribly trying to the paleface who has to live through it for the first time; but to the trained hand those ghastly calls and still ghastlier silences are but an intimation of how the night is marching.
 That this was the usual procedure was so well known to Hook that in disregarding it he cannot be excused on the plea of ignorance.

 海賊達の攻撃は、完璧な不意打ちであった。これは無節操な戦術家フックが、この急襲を交戦の常識を外れて行ったことを証明するものである。何故ならインディアン達の裏をかくなどということは、通例白人の思慮の及ぶ範囲ではないからである。
 野蛮人達の記録には書かれていないあらゆるしきたりにおいて、攻撃を行うのは常にインディアン達と定められている。そしてこの種族の頑迷なる慣習により、それは夜明け前に行われるものと決まっている。この時間帯においては白人の士気が最も低下していることを、彼等は弁えているからである。白人達は程なく起伏のある地勢の頂上部分に急ごしらえの防御策を築くに至る。この丘の下方には一本の川が流れている。水辺からあまりに離れたところに陣を張るのは、破滅を意味するからである。そこで彼等は襲撃の時を待つのである。不馴れな者達は短銃を握りしめ、枯れ枝の上を歩き回っているが、熟練した者達は夜明けの直前まで穏やかに眠りを享受している。この長い闇夜の中を、野蛮人の斥候は草の葉一枚揺らすことなく、蛇のように草地の上に歩を進めていく。彼の通った後では、土竜が潜った後の砂のように、茂みの小枝はまた道を塞ぐのである。彼等が侘びし気なコヨーテの叫び声を見事に真似てみせる折を除いて、ほんのわずかな物音さえも聞こえることはない。その叫びはまた別の勇者によって返されるが、いくつかは当のコヨーテのものよりもさらに巧みなものである。そのようにして夜露に冷やされた刻々は過ぎていく。このような状況を始めて経験する顔を青ざめさせた新参者には、堪え難い緊張である。しかし古参の者にとっては、このおぞましい叫びと、その後に続くさらにおぞましい沈黙も、夜の更けゆく様の模倣に過ぎないものである。
 これが戦闘における通例の手順であることをフックは周知していた筈である。従って、この手順を無視したことに対する責めにおいては、無知を理由とする弁明は期待できないものとなろう。

 フックの採用した戦術について語るこのあたりの記述は、取り分け荘重な、格調高い文体になっている。あたかも歴史書の記述の一部を繙くかのようである。この諧謔の妙味を正しく理解するには、相応の知識と感覚が必要とされることだろう。

用語メモ
 surprise:戦略用語としては“不意打ちの急襲”である。このお話の主題と感覚は到底子供達の理解の及ぶようなものではないが、このあたりの記述と用語もかなりの知性を有した大人にのみ理解可能なものである。子供を主題としたこのお話は、子供が読むようなものではない。



◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー英雄―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm



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