Archive for 17 April 2006

17 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 152


 Here dreaming, though wide-awake, of the exquisite tortures to which they were to put him at break of day, those confiding savages were found by the treacherous Hook. From the accounts afterwards supplied by such of the scouts as escaped the carnage, he does not seem even to have paused at the rising ground, though it is certain that in that grey light he must have seen it: no thought of waiting to be attacked appears from first to last to have visited his subtle mind; he would not even hold off till the night was nearly spent; on he pounded with no policy but to fall to. What could the bewildered scouts do, masters as they were of every war-like artifice save this one, but trot helplessly after him, exposing themselves fatally to view, the while they gave pathetic utterance to the coyote cry.

 こうして白人達の清廉を信じきっていた野蛮人達は、しっかりと目覚めはしていながらも、心は夜明けに敵の海賊に入念に与える苦痛を夢見ているところを、謀略を弄するフックに襲われたのであった。この惨劇を逃れた数人の斥候から後に得られた証言によれば、東雲の薄明かりの中でそれが見て取れなかった筈がないのは明らかであるにも関わらず、フックは昇りの斜面に至った時でさえ全く前進を休止しなかったというのである。この男の狡猾な脳髄には、攻撃を待つという考えは最初から最後まで全く浮かぶことはなかったと思われる。さらにフックは、夜が明けきるまで待機するという慎みさえも持たなかったのである。ただ攻撃を仕掛けるという以外の戦略は全くなしに、フックは猛襲をかけたのであった。通例の戦略行動においてはいかに精通していようと、泡を食った斥候達は、悲し気なコヨーテの叫び声をあげながら、なす術も無くフックの後に従い、自らの姿を敵の眼前に曝して致命的な危険を招く以外に手は無かった。
 
 語られた事実よりもその事実を語る語り口の及ぼす効果が、仮構世界の保持する意義性をより一層深めている。当然のことながらフィクションとは語りの技術によって成り立つ世界なのである。

用語メモ
 scout(斥候):戦場の偵察を行う兵士である。フックの攻撃を合図によって本体に知らせ、攻撃を仕掛けた敵の背後をついて挟み撃ちにすることも出来るのがこの場合の斥候の取り得る戦略行動である。このような常識とは全く異なる事実と因果関係が、この仮構世界の記述には展開されていることになる。そして読者は、描かれたその仮構世界ではなく、むしろその記述の手法自体を鑑賞の対象とすることを期待されているのである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm



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