Archive for 20 April 2006

20 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 155


 What were his own feelings about himself at that triumphant moment? Fain would his dogs have known, as breathing heavily and wiping their cutlasses, they gathered at a discreet distance from his hook, and squinted through their ferret eyes at this extraordinary man. Elation must have been in his heart, but his face did not reflect it: ever a dark and solitary enigma, he stood aloof from his followers in spirit as in substance.
 The night's work was not yet over, for it was not the redskins he had come out to destroy; they were but the bees to be smoked, so that he should get at the honey. It was Pan he wanted, Pan and Wendy and their band, but chiefly Pan.

 この勝利の瞬間の、フックの自分自身に対する思いは、いかなるものであっただろうか?彼の手下共は激しく息をつき、刀の血糊を拭いながら、親分の鉤爪から程々の距離を保って周囲に寄り集まり、鼬のような目をしてこの常識を外れた男の姿を見守りながら、それを知りたいと思ったのであった。フックの胸の中には、心の高揚が満ち溢れていた筈であった。しかし彼の顔貌には、それは反映されていなかった。常に孤独な、謎に包まれた男として、フックは手下のもの達からは肉体においてばかりでなく、その精神においても遠くかけ離れていたのであった。
 この一夜の仕事は、まだ完遂されてはいなかった。何故ならフックが滅ぼそうと心に決めていたのは、インディアン達ではなかったからである。インディアン達は、蜜を手に入れるために煙で燻し出す蜜蜂に過ぎなかった。フックの狙いはパンであった。ウェンディと仲間の少年達も目的には含まれていたが、何と言っても相手はパンであった。

 ここでフックについて語られている“enigma”(謎)という語は、この後でピーターについて語られている“riddle”(謎)という語と正確に対応して、このお話の隠れた主題を解く鍵として機能することになるのである。

用語メモ
 enigma:解明することのできない“謎”であり、心を惑わす“不可解な神秘”である。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm





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