Archive for 21 April 2006

21 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 156


 Peter was such a small boy that one tends to wonder at the man's hatred of him. True he had flung Hook's arm to the crocodile, but even this and the increased insecurity of life to which it led, owing to the crocodile's pertinacity, hardly account for a vindictiveness so relentless and malignant. The truth is that there was a something about Peter which goaded the pirate captain to frenzy. It was not his courage, it was not his engaging appearance, it was not --. There is no beating about the bush, for we know quite well what it was, and have got to tell. It was Peter's cockiness.
 This had got on Hook's nerves; it made his iron claw twitch, and at night it disturbed him like an insect. While Peter lived, the tortured man felt that he was a lion in a cage into which a sparrow had come.

 ピーターはこんなにも小さな子供だったのであるから、この男がピーターにこれほどまで強い憎しみの念を抱くことに、驚きの思いを感じる人もあるかもしれない。確かにピーターは、フックの腕を鰐に食べさせてしまったのであった。けれどもこの事とその結果鰐の執拗さのために導かれた生命の危険ということだけでは、これほど容赦のない悪意に満ちた恨みの念を説明することはできない。実際のところは、ピーターのどこかにこの海賊船の船長を狂気に駆り立てるものがあったのである。それはピーターの勇気でもなく、ピーターの見栄えのする容姿でもない、それは…。あれこれ詮索する必要はないだろう。それが何であるかは、我々には良く分かっているはずである。だから言ってしまわなければならないであろう。それはピーターの生意気さであった。
 これがフックの気に障ったのである。ピーターの顔を思い出すだけで、フックの鉤爪は引きつった。夜にはうるさい蚊のように心を乱したのである。ピーターが生きている限り、この責め苛まれた男は、雀が舞い込んだ檻の中の獅子のような思いにさせられたのである。

 フックのピーターに対する敵対心の原因としてここで持ち出されている“cockiness”(生意気さ)は、勿論擬装のために語られたものであり、フックの抱く憎しみの念の真の原因が“hatred”と同義の“attraction”であることは明白である。
 ピーターの“生意気さ”は、実際のところは彼の不可解な乳歯の場合と同様に、因果関係の連鎖の転倒という巧妙な観念操作を軸にして語られた、鮮やかなレトリックの所産なのである。本当のところは、ピーターの保持していた属性の一つである“生意気さ”がフックの心を苛立たせるのではなく、ピーターの存在自体が否応も無くフックを苛立たせる原因となる謎を秘めており、そのためにフックはピーターの姿に避けるべくもなく“生意気さ”という圧倒的な主観的印象を感じ取ってしまうのである。
 フックは絶え間なくピーターのために心を苛まれ続ける永遠の被害者であり、不可避的に救済される術を奪われた、宿命的な受難者なのである。この両者の関係性が主客を転倒した相互作用的現象認識に関する記述手法の展開の一例として、“生意気さ”という属性あるいは概念を採用してさりげなく語られていた、というのが事の真相なのであった。

用語メモ
 cockiness:“自惚れている”、“気取っている”ことである。“cock”(雄鶏)の示すような態度である。ピーターの特徴を最も適切に語る言葉とされている。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー英雄―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm




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