Archive for 23 April 2006

23 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 158


 "The tom-tom," the miscreants heard Peter cry; "an Indian victory!"
 The doomed children answered with a cheer that was music to the black hearts above, and almost immediately they repeated their good-byes to Peter. This puzzled the pirates, but all their other feelings were swallowed by a base delight that the enemy were about to come up the trees. They smirked at each other and rubbed their hands. Rapidly and silently Hook gave his orders: one man to each tree, and the others to arrange themselves in a line two yards apart.

 「トムトムの音だ。インディアンの勝利だ。」極悪人達の耳には、ピーターが叫ぶ声が聞こえた。
 子供達も、歓声をあげてピーターの叫びに唱和した。彼等に課せられた宿命を思って、地上の海賊達は有頂天になったのである。子供達はすぐさまピーターへの別れの言葉を繰り返した。これを聞いて海賊達は首を捻った。けれども彼等の疑念も、敵の子供達がこれから木の通路をあがって来ようとしていることを知った、さもしい喜びのために呑み込まれてしまった。海賊達は顔を見合わせてほくそ笑み、両手を摺り合わせた。迅速に、そして音も無くフックは命令を下した。各々の木に一人の海賊がつき、他のもの達は二ヤード離れて一直線上に並ぶのである。

 ピーターも子供達も、戦いをインディアン達に任せて放置する。そして自分達の犠牲なしに勝利が得られたと考えた子供達は、ピーターに加護を訴えていたことも忘れて、即座にピーターに別れを告げる。徹頭徹尾手前勝手で人でなしであるのは、むしろ子供達の方なのである。勇敢に作戦行動を展開し、整然と事後処理を行おうとしているフックと彼の手下達をことさら卑しめて語る作者の話法には、明らかに擬装が施されている。

用語メモ
 miscreant(悪漢、外道、不信心者):“mis”は否定をあらわす接頭辞。“creant”はフランス語の“creire”つまり“believe”(信じる)の意味。ラテン語の形では“credere”で、英語の“creed”(主義、信条)と語源を等しくする。これは邪教徒、異教徒の類いを呼ぶ軽蔑的で差別的な言葉であった。
 base(卑しい、下等な):“noble”の反対語である。フックや海賊達に対しては、しばしば理由なく非難、譴責の言葉が加えられる。これらは戦いの相手に対して子供達が独り善がりに思い描いて情け容赦も無く与える、偏見に満ちた烙印を模したものであろう。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm













00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks