Archive for 24 April 2006

24 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 159


Chapter 13
DO YOU BELIEVE IN FAIRIES?

 The more quickly this horror is disposed of the better. The first to emerge from his tree was Curly. He rose out of it into the arms of Cecco, who flung him to Smee, who flung him to Starkey, who flung him to Bill Jukes, who flung him to Noodler, and so he was tossed from one to another till he fell at the feet of the black pirate. All the boys were plucked from their trees in this ruthless manner; and several of them were in the air at a time, like bales of goods flung from hand to hand.
 A different treatment was accorded to Wendy, who came last. With ironical politeness Hook raised his hat to her, and, offering her his arm, escorted her to the spot where the others were being gagged. He did it with such an air, he was so frightfully distingue, that she was too fascinated to cry out. She was only a little girl.
 Perhaps it is tell-tale to divulge that for a moment Hook entranced her, and we tell on her only because her slip led to strange results. Had she haughtily unhanded him (and we should have loved to write it of her), she would have been hurled through the air like the others, and then Hook would probably not have been present at the tying of the children; and had he not been at the tying he would not have discovered Slightly's secret, and without the secret he could not presently have made his foul attempt on Peter's life.

 この恐ろしい有り様は、なるべく手短に語ってしまうのが良いであろう。最初に木から姿を現したのは、カーリーであった。カーリーは出て来たばかりのところをチェッコに捕らえられた。チェッコはカーリーをスミーに投げ渡した。スミーはカーリーをスターキーに投げ渡した。スターキーはカーリーをビル・ジュークスに、ジュークスはヌードラーに、という風にしてカーリーは次々に海賊達によって投げ渡され、最後に恐ろしい親分の足許に放り出された。子供達の全員が、この手荒いやり方で自分の木から引き出され、荷材のように宙を運ばれていったのである。
 最後に出て来たウェンディに対しては、異なった扱いがなされた。大げさに気取った礼儀作法を装って、フックは帽子を挙げて見せ、手を差し伸べて他の少年達が猿ぐつわをかませられているところまでウェンディを案内した。フックはこの動作をことのほか優雅な仕草を用いて行い、その姿があまりにも際立っていたので、ウェンディはすっかり魅了されてしまい、悲鳴をあげるのも忘れてしまうほでであった。何と言ってもウェンディは小さな女の子でしかなかった。
 一瞬の間フックがウェンディの心を捉えてしまったことを、ここで明かしてしまうのは、告げ口になってしまうだろう。しかし彼女の気の迷いが思わぬ結果を招くことになったので、この事実を語っておく必要がある。もしもウェンディが高飛車にフックの手を振払っていたならば、彼女も子供達と同様に宙を運ばれることになっていただろう。そしてフックは子供達を縛り付けるところには行き合わさなかったことだろう。そして縛り付ける現場にいなかったならば、フックはスライトリーの秘密を嗅ぎ付けたりはしなかったことだろう。そしてその秘密を手に入れることがなかったら、それからピーターの命を狙ってフックが悪辣な策略を弄することもなかった筈なのである。

 些細な事柄の選択の違いから、重大な事件がもたらされてしまうことにもなる。しかしその重大さも、運命に弄ばれる人間存在の個々の意識にとっての主観的なものであり、世界全体の存立機構とはいささかも関連を持つことがない。世界の創世と宇宙の運行との本質的な関係性から切り離され、あるいは契約や義務から自由となった人間存在は、気まぐれな運命によって導かれる現実の瑣末性を強く意識することとなった。これは18世紀から19世紀にかけての人々の胸中にあった支配的な観念と言えるだろう。一方、フィードバック系の中の微細な要因が繰り返しの中で常に均されるばかりでなく、時に重大なカタストロフィに導く偏差をも生成することをシステム理論として再確認した20世紀以降の知識にとっては、“偶発性”という概念そのものが改めて思念の考究対象ともなったのである。

用語メモ
 escort:淑女に対して手を差し伸べ、案内をする作法である。ここではウェンディに対する敬意からではなく、フック自身の生まれの良さを誇示する仕草となっている。



◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm


00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks