Archive for 28 April 2006

28 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 163


Unaware of the tragedy being enacted above, Peter had continued, for a little time after the children left, to play gaily on his pipes: no doubt rather a forlorn attempt to prove to himself that he did not care. Then he decided not to take his medicine, so as to grieve Wendy. Then he lay down on the bed outside the coverlet, to vex her still more; for she had always tucked them inside it, because you never know that you may not grow chilly at the turn of the night. Then he nearly cried; but it struck him how indignant she would be if he laughed instead; so he laughed a haughty laugh and fell asleep in the middle of it.
Sometimes, though not often, he had dreams, and they were more painful than the dreams of other boys. For hours he could not be separated from these dreams, though he wailed piteously in them. They had to do, I think, with the riddle of his existence. At such times it had been Wendy's custom to take him out of bed and sit with him on her lap, soothing him in dear ways of her own invention, and when he grew calmer to put him back to bed before he quite woke up, so that he should not know of the indignity to which she had subjected him. But on this occasion he had fallen at once into a dreamless sleep. One arm dropped over the edge of the bed, one leg was arched, and the unfinished part of his laugh was stranded on his mouth, which was open, showing the little pearls.

 地上で引き起こされている悲劇のことは知る由もなく、ピーターは他の子供達が立ち去った後も、暫く快活に笛を吹き続けていた。これが、自分が何の無念も抱いてはいないことを示すための侘びしい試みであることは、疑い無かった。それからピーターは、お薬を飲むのを止めることにした。ウェンディを悲しませるためである。それからピーターは、掛け布団の外に体を出した。さらにウェンディに気を揉ませるためである。ウェンディはいつも、子供達をしっかりと掛け布団で包み込んでいた。明け方になるとどれほど冷え込むか、子供達が全く分かっていないからである。それからピーターは、すんでのところで泣き出しそうになった。しかしその瞬間、もしも彼が泣く代りに笑い出したら、ウェンディは大層心を痛めるであろうと考えた。そしてピーターは高らかに笑い、笑いながら眠りに落ちたのである。
 しばしばでは無かったが、時折ピーターは夢を見ることがあった。そしてその夢は、他の少年達の夢よりももっと辛いものであった。苦しそうにうめきながらも、何時間にも渡ってこの夢から逃れられないでいることもあった。これらの夢は、ピーターの存在の謎に関わるものではないかと思われる。このような折には、ウェンディはいつもピーターをベッドから抱き起こして膝の上に乗せ、自分で考え出したやり方で優しく慰めてやるのであった。そしてピーターの様子が落ち着くと、まだはっきりと目覚めないうちにまたベッドに戻してやるのだった。ウェンディのために被った不名誉が、ピーターの知るところとならないようにするためである。けれどもこの時は、ピーターは即座に深い眠りに落ち込んだのであった。片手はベッドの端から垂れ下がり、片足は膝を立て、まだ消えていなかった笑いの名残は、小さな真珠のような乳歯を覗かせた彼の口許にひっかかっていた。

 語り手自身の声によって、ピーターの存在に関する謎についての言及がなされている。ここで“riddle”と呼ばれているものこそ、このお話の根幹的主題となるものであろう。

用語メモ
 tuck:ベッド・メーキングの際に上の掛け布団側のシーツをマットの下に織り込む作業のこと。眠る人は二枚のシーツの間に挟まれた格好になる。



◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

 第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。


5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm



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