Archive for 03 April 2006

03 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 138


 "Ah, old lady," Peter said aside to Wendy, warming himself by the fire and looking down at her as she sat turning a heel, "there is nothing more pleasant of an evening for you and me when the day's toil is over than to rest by the fire with the little ones near by."
 "It is sweet, Peter, isn't it?" Wendy said, frightfully gratified. "Peter, I think Curly has your nose."
 "Michael takes after you."
 She went to him and put her hand on his shoulder.
 "Dear Peter," she said, "with such a large family, of course, I have now passed my best, but you don't want to change me, do you?"
 "No, Wendy."
 Certainly he did not want a change, but he looked at her uncomfortably, blinking, you know, like one not sure whether he was awake or asleep.
 "Peter, what is it?"
 "I was just thinking," he said, a little scared. "It is only make-believe, isn't it, that I am their father?"
 "Oh yes," Wendy said primly.
 "You see," he continued apologetically, "it would make me seem so old to be their real father."
 "But they are ours, Peter, yours and mine."
 "But not really, Wendy?" he asked anxiously.
 "Not if you don't wish it," she replied; and she distinctly heard his sigh of relief. "Peter," she asked, trying to speak firmly, "what are your exact feelings to me?"
 "Those of a devoted son, Wendy."
 "I thought so," she said, and went and sat by herself at the extreme end of the room.

「なあ、かあさん。」ピーターは暖炉の火で体を暖めながら、靴下のかかとを裏返しているウェンディに語りかけました。「お前と儂には一日の仕事が終わった後の晩、子供達に囲まれて暖炉の前でくつろぐのに増したことはないね。」
「本当に素敵ね。ピーター。」ウェンディは感謝の念に満たされて言いました。  「ピーター、カーリーの鼻はあなたにそっくりね。」
 「マイケルはお前によく似てるよ。」
ウェンディは、マイケルのところに行って肩に手をかけました。
 「ねえ、ピーター。」ウェンディは言いました。「こんなに沢山の子供達を持って、私ももうおばさんになってしまったけれど、こんな私で満足?」
「勿論だよ。ウェンディ。」
確かにピーターは、このままでいいと思っていました。けれどもピーターはウェンディの方に目を向けて、落ち着き無く目をしばたたせたのです。自分が眠っているのか目覚めているのか、はっきりと分からないとでもいうかのようでした。
「ピーター、どうしちゃったの?」
「ちょっと考えていたんだけど、」ピーターは、おびえたような顔をして言いました。「僕がこの子達のお父さんなのは、ただのメイク・ビリーブだったよね。」
「勿論そうよ。」ウェンディは、興醒めして言いました。
「あのね、この子達のお父さんをやっていると、何だか年をとっているような気がしてしまうんだ。」ピーターは、弁解するように続けました。
「でもこの子達は、私たちの子供よ。あなたと私の子供なのよ。」
「でも、本当はそうじゃないんだよね。ウェンディ。」ピーターは、心配そうに言いました。
「もしも嫌なのなら、やめてもいいのよ。」ウェンディは答えました。そしてウェンディの耳には、ピーターが安堵のため息をつくのがはっきりと聞こえました。「ピーター、」ウェンディは、しっかりとした口調で言おうと意識しながら尋ねました。「あなたは私のことを、本当はどんな風に思っているの?」
「大好きなお母さんだと思ってるよ。」
「そうだと思ったわ。」ウェンディはそう言うと、部屋の端まで行って、一人で座り込みました。

 ピーターは、ウェンディと共に夫婦を演じるゲームをしていながら、「母親」の連れあいである「父親」の役と、「母親」に庇護される「息子」の役の違いを自覚することができていない。これは同時に彼が、「お母さん」と「妻」の違いを理解することが出来ないことを意味する。ピーターの存在の謎を形成する条件の一端である。

用語メモ
 aside(傍白):劇の用語としては、舞台上の他の人物達へかける言葉とは異なる、観客に向けて語る訴えや、心中の思いを独り言として述べる言葉のことをいう。



和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473  
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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