Archive for 30 April 2006

30 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 165


 But what was that? The red in his eye had caught sight of Peter's medicine standing on a ledge within easy reach. He fathomed what it was straightaway, and immediately knew that the sleeper was in his power.
 Lest he should be taken alive, Hook always carried about his person a dreadful drug, blended by himself of all the death-dealing rings that had come into his possession. These he had boiled down into a yellow liquid quite unknown to science, which was probably the most virulent poison in existence.
 Five drops of this he now added to Peter's cup. His hand shook, but it was in exultation rather than in shame. As he did it he avoided glancing at the sleeper, but not lest pity should unnerve him; merely to avoid spilling. Then one long gloating look he cast upon his victim, and turning, wormed his way with difficulty up the tree. As he emerged at the top he looked the very spirit of evil breaking from its hole. Donning his hat at its most rakish angle, he wound his cloak around him, holding one end in front as if to conceal his person from the night, of which it was the blackest part, and muttering strangely to himself, stole away through the trees.

 しかしあれは一体何であろうか?フックの目の赤い部分が、手の届く棚の上に置いてあったピーターの薬の瓶を見つけ出した。即座にフックはこの瓶の正体を推測し、程なく眠っている敵が自分の掌中に落ちたことを理解したのである。
 捕らえられて生き恥をさらすことの無いように、フックは常に強力な毒薬を携えていた。彼は手に入れたあらゆる致命的な薬物を自ら調合し、これらを煮詰めて未だ科学の知るところとなっていない黄色の液体を造り上げていた。これはあらゆる毒物の中で最も毒性の強いものであると思われた。
 この毒薬を5滴、フックはピーターのカップの中に垂らし込んだ。フックの手は震えていた。しかしそれは恥辱のためではなく、むしろ心の高揚のためであった。この動作を行いながら、フックは眠っているピーターの姿に目を向けないようにしていた。哀れの念のために心が挫けるのを嫌ったためではなく、ただ毒薬をこぼすことのないようにするためであった。それからもう一度、じっと満足そうにほくそ笑みながら、フックは自分の餌食となった敵の姿に目を落とした。そしてまた木の通路を攀じ昇っていったのである。上の出口から身を乗り出した時のフックの姿は、穴から顔を覗かせた邪悪の精さながらであった。海賊帽をならず者らしいぴったりの角度で頭に乗せ、腕を通した外套を、あたかも夜の暗闇から最もどす黒い自らの姿を隠そうとでもいうように体の前で手で押さえて、フックは何かをつぶやきながら木々の間をくぐり抜けて行った。

 ピーターに毒をもった後、立ち去るフックの姿の描写が興味深い。フックの自意識の強さと、独特の美学的性向が窺える場面である。フックは常に自分自身の姿を客観的に捉え、生を送る有様そのものを演じることを忘れない。自意識こそがこの作品の根幹的主題である。フックの悲劇の原因がここにあることは明白である。

用語メモ
 rake:「放蕩者」、「ならず者」と訳されることが多いが、もともとは“rake Hell”すなわち「地獄をかき乱す者」である。頑強な意志の許に権力と体制に刃向い、既存の道徳に背を向け、自分だけの価値観に従って生を送る決心をした、自覚的な悪漢像の演技者である。別名を“リバティーン”(libertine)とも呼ばれる。海賊であることは、全ての欺瞞に背を向けて生きる自由人であることの意志表示ともなる。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm













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