Archive for 05 April 2006

05 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 140


 None of them knew. Perhaps it was best not to know. Their ignorance gave them one more glad hour; and as it was to be their last hour on the island, let us rejoice that there were sixty glad minutes in it. They sang and danced in their night-gowns. Such a deliciously creepy song it was, in which they pretended to be frightened at their own shadows, little witting that so soon shadows would close in upon them, from whom they would shrink in real fear. So uproariously gay was the dance, and how they buffeted each other on the bed and out of it! It was a pillow fight rather than a dance, and when it was finished, the pillows insisted on one bout more, like partners who know that they may never meet again. The stories they told, before it was time for Wendy's good-night story! Even Slightly tried to tell a story that night, but the beginning was so fearfully dull that it appalled not only the others but himself, and he said happily:
 "Yes, it is a dull beginning. I say, let us pretend that it is the end."
 And then at last they all got into bed for Wendy's story, the story they loved best, the story Peter hated. Usually when she began to tell this story he left the room or put his hands over his ears; and possibly if he had done either of those things this time they might all still be on the island. But to-night he remained on his stool; and we shall see what happened.

誰にも分かってはいませんでした。おそらく、知らないのが一番良かったのでしょう。そのおかげでもう一時間楽しく過ごすことができました。そしてこれが彼等がネバーランドで過ごした最後の一時間だったのですから、60分の楽しい時がそこに含まれていたことを喜びたいと思います。みんなは寝巻きを着たまま歌って踊って楽しく過ごしました。それはちょっとぞくっとする、不思議な味わいの歌でした。自分自身の影に怯える振りをするのです。すぐ後でその影に取り憑かれてしまい、心の底から怯えさせられることになるなんて、考えもしなかったのでした。彼等のダンスは、この上なく愉快なものでした。子供達はベッドの上で体をぶつけ合い、ベッドの外に飛び出しました。それはダンスというより、むしろ枕合戦でした。戦いが終わった後も、枕達はもう一回戦いを続けることを主張しました。あたかも二度と再び戦うことがないと知っている相手同士のようです。ウェンディが寝る前のお話をしてくれる前に子供達がしたお話といったら!スライトリーさえもが、自分でお話をしようとしたのです。でも始まりがどうしようもなく退屈なものだったので、他の子供達ばかりでなく、スライトリー自身さえもがうんざりしてしまったのです。という訳で、スライトリーはうれしそうに言いました。
「うん、退屈な出だしだ。もうお終いになったことにしよう。」
その後でようやくみんなは、ウェンディのお話を聞くためにベッドに入りました。それは子供達が一番好きなお話で、ピーターが一番嫌いなお話でした。普段はウェンディがこのお話を話し始めると、ピーターは部屋を出るか、両手を耳に当てるのでした。もしもこの時ピーターがどちらか一方でもしていれば、みんなまだネバーランドにいられたかもしれません。けれども今晩は、ピーターは自分の椅子に留まっていたのです。それからどうなったかを見てみましょう。

 ここでもまた“影”に対する言及が見られる。19世紀に欧米の諸国で書かれた“影”の主題が、日常生活に浸透していたことを示すかのような記述である。お話の冒頭に登場していたダミーの影に引き続いて、お話の主題を導く伏線としての影が言及されているのである。

用語メモ
 お話:この『ピーターとウェンディというお話においては、様々の形で“お話”と“語り”という主題が導入されている。お話(story, narration)とは“物語る”という行為でもあり、語られたとされる“仮構”でもある。 



和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473  
◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/


 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中












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