Archive for 07 April 2006

07 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 142


"Oh dear, oh dear," sighed Wendy. "Now these three children had a faithful nurse called Nana; but Mr. Darling was angry with her and chained her up in the yard, and so all the children flew away."
"It's an awfully good story," said Nibs.
"They flew away," Wendy continued, "to the Neverland, where the lost children are."
"I just thought they did," Curly broke in excitedly. "I don't know how it is, but I just thought they did!"
"O Wendy," cried Tootles, "was one of the lost children called Tootles?"
"Yes, he was."
"I am in a story. Hurrah, I am in a story, Nibs."
"Hush. Now I want you to consider the feelings of the unhappy parents with all their children flown away."
"Oo!" they all moaned, though they were not really considering the feelings of the unhappy parents one jot.
"Think of the empty beds!"
"Oo!"
"It's awfully sad," the first twin said cheerfully.
"I don't see how it can have a happy ending," said the second twin. "Do you, Nibs?"
"I'm frightfully anxious."
"If you knew how great is a mother's love," Wendy told them triumphantly, "you would have no fear." She had now come to the part that Peter hated.
"I do like a mother's love," said Tootles, hitting Nibs with a pillow. "Do you like a mother's love, Nibs?"
"I do just," said Nibs, hitting back.
"You see," Wendy said complacently, "our heroine knew that the mother would always leave the window open for her children to fly back by; so they stayed away for years and had a lovely time."

 「やれ、やれ。」ウェンディは溜息をつきました。「さて、この3人の子供達には、しっかり者の子守りがついておりました。ナナという名前です。けれどもダーリング氏はナナに腹を立てて、庭に鎖で繋ぎ止めてしまいました。そして子供達はみんな逃げ出したのです。」
 「滅茶苦茶、面白い話だな。」ニブズが言いました。
 「子供達は、ネバーランドへと逃げ出したのです。」ウェンディは続けました。「あの、ロスト・ボーイズ達のいるネバーランドです。」
 「そうだと思ったんだ。」カーリーが興奮して口を挟みました。「何故だか分からないけど、ロストボーイズが出て来るはずだと思ったんだ。」
 「ねえ、ウェンディ。ロスト・ボーイズの中には、トゥートゥルズという子がいなかった?」
 「その通り、いたのよ。」
 「僕は、お話の中に出て来るんだ。やったね、どうだい、ニブズ。」
 「でもね。子供達がみんな逃げ出してしまった可哀想なお父さんとお母さんのことも考えてあげてね。」
 「うーむ。」子供達は全員うなるように声をあげました。でも実際には、両親の気持ちなんてちっとも考えてなんかいなかったのです。」
 「子供達のベッドが、空っぽになっちゃってるのよ。」
 「うーむ。」
 「とても悲しいことだね。」双子の兄がにこやかに言いました。
 「これで、ハピー・エンドになるのかな?」弟が言いました。「どう思う?ニブズ?」
 「滅茶苦茶、心配だね。」
 「でもね、お母さんの愛情がどれだけ素晴らしいものかさえ知っていれば、」ウェンディは勝ち誇ったように言いました。「心配することなんて、ちっともないのよ。」ウェンディのお話は、ピーターが一番嫌いなあたりに来ていました。
 「お母さんの愛情は、とても素敵だと思うな。」トゥートゥルズが言って、枕でニブズをひっぱたきました。「君はお母さんの愛情、好きかい?ニブズ。」
 「そりゃあ、大好きさ。」ニブズは言って、叩き返しました。
 「娘は、お母さんがいつも、みんなが帰ってこられるように家の窓を開けておいてくれることを知っていたの。だからみんなは、何年も家を留守にして、とても楽しく過ごしたの。」ウェンディは安心しきった様子で続けました。

 お話を語るものと聞くものとの間のやりとりを通じて、お話の世界が語り手聞き手双方の意識の中に生成して行く様が語られている。ピーターという存在と、そしてお話を語ったり聞いたりする自分やその自分を取り巻く世界というそれぞれの実体もまた、このお話と同様に個々の意識の中に浮動しつつ形作られて行くものなのである。

用語メモ
 仮構内仮構:現実世界に生起した事象を仮構として語るのではなく、仮構として語られた事実が現実世界の一部を言及し、仮構世界に取り込もうとしている、という仮構からの現実に対する参照が語られた、仮構となっている。




和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm
論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー2:ファンタシーにおける非在性のレトリック─『最後のユニコーン』のあり得ない比喩と想像不能の情景”を新規公開中



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