Archive for 09 April 2006

09 April

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 144


 But there was one there who knew better, and when Wendy finished he uttered a hollow groan.
 "What is it, Peter?" she cried, running to him, thinking he was ill. She felt him solicitously, lower down than his chest. "Where is it, Peter?"
 "It isn't that kind of pain," Peter replied darkly.
 "Then what kind is it?"
 "Wendy, you are wrong about mothers."
 They all gathered round him in affright, so alarming was his agitation; and with a fine candour he told them what he had hitherto concealed.
 "Long ago," he said, "I thought like you that my mother would always keep the window open for me, so I stayed away for moons and moons and moons, and then flew back; but the window was barred, for mother had forgotten all about me, and there was another little boy sleeping in my bed."
 I am not sure that this was true, but Peter thought it was true; and it scared them.
 "Are you sure mothers are like that?"
 "Yes."
 So this was the truth about mothers. The toads!
 Still it is best to be careful; and no one knows so quickly as a child when he should give in. "Wendy, let us go home," cried John and Michael together.
 "Yes," she said, clutching them.
 "Not to-night?" asked the lost boys bewildered. They knew in what they called their hearts that one can get on quite well without a mother, and that it is only the mothers who think you can't.

 けれども、そんな愚かな間違いを犯すことのないものが一人だけいました。ウェンディがお話を終えた時、彼はうめくような声をあげたのです。
 「どうしたの、ピーター?」ウェンディは叫んで、ピーターのところに駆け寄りました。具合が悪いのじゃないかと思ったのです。ウェンディは、ピーターの体の胸の下の方を心配そうに触ってみました。「どこが痛いの、ピーター?」
 「そういう痛みじゃないんだ。」
 「じゃあ、どんな痛みなの?」
 「ウェンディ、お母さんというのは、君の考えているのとは違うんだ。」
 子供達は怖くなって、全員ピーターの周りに集まりました。ピーターの様子の変化が、彼等を怯えさせたのです。そして正直な態度で、ピーターはこれまでみんなに隠していた秘密を打ち明けました。
 「ずっと昔、僕も君たちと同じように、僕のお母さんはいつも僕が帰って来られるように窓を開けておいてくれると思っていた。そして僕はずっと長いこと家を離れていたんだ。そして戻ってきてみると、窓にはかんぬきがかけられていた。お母さんは、僕のことを忘れてしまっていたんだ。僕のベッドには、別の小さな男の子が眠っていた。」ピーターは語りました。
 これは本当のことなのかどうか、良く分かりません。でも、ピーターは、本当だと信じていました。そしてみんなは、不安になったのです。
 「本当に、お母さんは忘れちゃうんだね。」
 「本当さ。」
 お母さんなんて、そういうものだったんだ。何てこった!
 でも、慎重に振舞うに越したことはありません。どこで妥協するかを、子供ほど迅速に判断できるものはいないのです。「ウェンディ、家に帰ろうよ。」ジョンとマイケルが一緒に言いました。
 「そうね。」ウェンディも二人の方に手をかけながら言いました。
 「まさか今晩じゃないだろ?」ロスト・ボーイズ達は、呆気にとられて尋ねました。彼等は自分で“心”と呼んでいるものの中で、自分達はお母さんなんてもの無しに充分楽しくやっていけることを良く知っていました。そうでないと思っているのは、そのお母さんの方だけなのです。

 子供という邪悪な生き物は、実際には“心”というものを持ち合わせていないことがよく分かる。彼等は文字通り“ハートレス”(無慈悲)な存在なのである。

用語メモ
 toad(ヒキガエル):蛙は一般に“frog”だが、蟇だけは別各で“toad”と呼ばれる。大抵は悪魔の手先か、怪しい魔法の薬の原料にされる。だから悪意を持って何かを呼ぶ時の代名詞として用いられるのである。



和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◆内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◆「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◆ アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◆ ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

 平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

 “公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

 “公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー英雄―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中








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