Archive for 10 May 2006

10 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 175


 "I am the only man whom Barbecue feared," he urged, "and Flint feared Barbecue."
 "Barbecue, Flint -- what house?" came the cutting retort.
 Most disquieting reflection of all, was it not bad form to think about good form?
 His vitals were tortured by this problem. It was a claw within him sharper than the iron one; and as it tore him, the perspiration dripped down his tallow countenance and streaked his doublet. Ofttimes he drew his sleeve across his face, but there was no damming that trickle.

 「俺は、バーベキューが恐れた唯一の人間だった。」フックは語り返した。「そしてフリントさえもが、バーベキューのことを恐れていた。」
 「バーベキューにフリント、…どの学寮の出身だったろう?」鋭い反論が返ってきた。
 何よりもフックの心を不安にしたのは、たしなみの良さ(グッド・フォ−ム)について考えを及ぼすことは、たしなみの良いことだろうか、という内省であった。
 フックの心の枢要は、この問題に苛まれていた。それは鉄製の鉤爪よりも鋭い、心中に食い込んだ棘であった。そしてその痛みにのたうちながら、フックは蒼白の顔に汗をしたたらせ、それは筋となって胴衣の上を流れた。何度もフックは袖で顔を拭った。しかし、したたる汗を止めることは出来なかった。

 恰好良さ(たしなみの良さ)を意識するのは、恰好よい(たしなみの良い)こととは言えないのではないか?“グッド・フォーム”をめぐって、自意識に関するディレムマの存在に照明が当てられることとなる。フックの名を形成する決定的要素として、ピーターに奪われた片腕の代りに彼が装着している鈎爪と照応して、彼の内面の自意識の存在があることが言及されている。むしろこの自意識こそが彼の名前の実体であり、この海賊の本質なのである。フックは自省心という悪夢に捕われた、あまりにも厳格過ぎる真理の追究者なのである。

用語メモ
 house(学寮):寄宿制のパブリック・スクールで生徒が所属する寮のことを“学寮”と呼ぶ。『ハリー・ポッター』の“グリフィンドール”なども同様。
 vitals:生命活動に必須の主要器官を指す言葉である。フックには自身の保持する妥協の無い論理的思考力とごまかしを許さない倫理観が、生命に関わる重大事となるのである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm



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