Archive for 11 May 2006

11 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 176


 Ah, envy not Hook.
 There came to him a presentiment of his early dissolution. It was as if Peter's terrible oath had boarded the ship. Hook felt a gloomy desire to make his dying speech, lest presently there should be no time for it.
 "Better for Hook," he cried, "if he had had less ambition!" It was in his darkest hours only that he referred to himself in the third person.
 "No little children to love me!"
 Strange that he should think of this, which had never troubled him before; perhaps the sewing machine brought it to his mind. For long he muttered to himself, staring at Smee, who was hemming placidly, under the conviction that all children feared him.
 Feared him! Feared Smee! There was not a child on board the brig that night who did not already love him. He had said horrid things to them and hit them with the palm of his hand, because he could not hit with his fist, but they had only clung to him the more. Michael had tried on his spectacles.

 フックをうらやむことはない。
 フックには、死の訪れが早くやって来る予感が感じられたのである。それはあたかも、ピーターの発した恐ろしい誓いの言葉が、船に届いたかのようであった。フックは時を逸する前に辞世の言葉を語っておきたいという、不吉な思いにかられた。
 「これほど偉大な野心を持つことさえ無かったら、フックにとっては幸運なことであったろうに。」彼は叫んだ。フックが自分のことを三人称で語るのは、どうしようもなく陰鬱な思いにかられた時であった。
 「俺のことを愛してくれる幼い子供達もいない。」
 こんな事を考えてしまうのは、奇妙なことであった。これまでかつて、このような思いにかられたことは無かった。おそらくミシンの音が、このような気持ちにさせたのであろう。長い間何かをつぶやきながら、フックはスミーの姿を眺めていた。スミーはと言えば、子供達が全員自分のことを怖れていると固く信じ込んで、衣服の縁をかがっているのだった。
 スミーのことを怖れる!このスミーを!この晩のうちに、もう既にスミーのことを愛してしまっていない子供など、一人もいなかった。スミーは彼等に恐ろしいことを言って、掌で彼等を打ったりもしていた。しかしそれは、拳で打つことが出来ないからであった。それでも子供達は、より一層彼の方に身をすり寄せてくるばかりであった。マイケルなどは、自分の顔に彼の眼鏡をかけてみたりもしていた。

 再びフックの心の内面が、詳細に描かれている。他の海賊達は、スミーの場合のようにあまりにも愚かで描くに値するものを持たないし、ピーターも含めて子供達の場合は、そもそも“心”というべきものを持っていないからである。

用語メモ
 dissolution:“死”、あるいは“破滅”を指すかなり高踏的な表現である。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
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◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



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http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
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