Archive for 12 May 2006

12 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 177


 To tell poor Smee that they thought him lovable! Hook itched to do it, but it seemed too brutal. Instead, he revolved this mystery in his mind: why do they find Smee lovable? He pursued the problem like the sleuth-hound that he was. If Smee was lovable, what was it that made him so? A terrible answer suddenly presented itself--"Good form?"
 Had the bo'sun good form without knowing it, which is the best form of all?
 He remembered that you have to prove you don't know you have it before you are eligible for Pop.
 With a cry of rage he raised his iron hand over Smee's head; but he did not tear. What arrested him was this reflection:
 "To claw a man because he is good form, what would that be?"
 "Bad form!"
 The unhappy Hook was as impotent as he was damp, and he fell forward like a cut flower.

 哀れなスミーに、お前は子供達に愛されていると、言ってやろうか?フックは、そうしてみたい気持ちに駆られた。しかし、それはあまりにも無慈悲な行為に思えた。その代りに、フックは胸の裡でこの謎について考えを巡らしてみた。どうして子供達は、スミーのことを愛してしまうのだろうか?フックは、この問題を、本来の探偵の性分で突き詰めていった。もしもスミーが愛すべき存在であるならば、一体何がそうさせるのか?恐ろしい解答が、突然浮かび上がってきた。それはひょっとして、グッド・フォームのためであろうか?
 この水夫長が、自分でそうと気付くことなくグッド・フォームを身に付けているとしたならば、それは最高のグッド・フォームではあるまいか?
 フックは“ポップ”に選出されるためには、自分がグッド・フォームを身に付けていることを自覚していないことを証明せねばならないことを思い出した。
 怒りの声をあげて、フックはスミーの頭の上に鉄の鉤爪を振りかざした。しかし、フックは鉤爪を振り下ろしはしなかった。彼の手を差し止めたのは、以下のような省察であった。
 「グッド・フォーム(恰好良さ)を体現しているという理由で人を殺めるのは、どのような振る舞いであろうか?」
 「バッド・フォーム(恰好悪さ)に相違ない!」
 不運なフックはすっかり気落ちして、体の力が抜けてしまった。そしてフックは、手折られた花のように体を前に傾けた。

 自意識と究極の正義、あるいは客観的知識と純粋な倫理との間に存在するあまりにも手強いパラドクスに、フックの鋭利過ぎる知性が直面してしまっている。これは価値観の相対化と自由意志による実存的生の選択という、現代の教養人としての知識を身に付けてしまったものには避けて通ることのできない、道徳上の難題なのである。

用語メモ
 Pop:超一流のパブリック・スクールであるEton校の社交クラブの名である。礼儀作法と弁論術を弁えていることが会員の重要な条件となる。
 damp:通例は“湿った”、“じめじめした”の意で用いられるが、古い用法では“気落ちした”、“心が挫けた”の意味もあった。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm



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