Archive for 13 May 2006

13 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 178


 His dogs thinking him out of the way for a time, discipline instantly relaxed; and they broke into a bacchanalian dance, which brought him to his feet at once, all traces of human weakness gone, as if a bucket of water had passed over him.
 "Quiet, you scugs," he cried, "or I'll cast anchor in you"; and at once the din was hushed. "Are all the children chained, so that they cannot fly away?"
 "Ay, ay."
 "Then hoist them up."
 The wretched prisoners were dragged from the hold, all except Wendy, and ranged in line in front of him. For a time he seemed unconscious of their presence. He lolled at his ease, humming, not unmelodiously, snatches of a rude song, and fingering a pack of cards. Ever and anon the light from his cigar gave a touch of colour to his face.
 "Now then, bullies," he said briskly, "six of you walk the plank to-night, but I have room for two cabin boys. Which of you is it to be?"
 "Don't irritate him unnecessarily," had been Wendy's instructions in the hold; so Tootles stepped forward politely. Tootles hated the idea of signing under such a man, but an instinct told him that it would be prudent to lay the responsibility on an absent person; and though a somewhat silly boy, he knew that mothers alone are always willing to be the buffer. All children know this about mothers, and despise them for it, but make constant use of it.

 フックの手下共は、親分が暫く目を離していると思うや、即座に規律を乱して、酔いに任せて踊り始めた。これに気付くや、フックはすぐさま我に返り、バケツの水を頭からかぶせられたように、人間らしい弱さは全て打ち捨てた。
 「ぐず共、大人しくしないか。」フックは叫んだ。「さもないと、お前等の体に錨を打ち込んでやることになるぞ。」即座に騒ぎは収まった。「子供達は全員鎖に繋いだか?飛んで逃げられることはないな?」
 「へい、へい。」
 「では、引っ張り出せ。」
 哀れな捕虜達は、ウェンディを除いて全員船倉から引きずり出され、フックの前に一列に並ばせられた。暫くの間フックは、彼等の存在を忘れているように見えた。フックはトランプの札をもてあそび、麗しくなくもない曲の音色をいくつか口ずさみながら、ゆったりと身を構えていた。時折、くわえている葉巻の発する光が彼の顔に色を添えた。
 「さて、野郎共、」フックは勢い良く声を発した。「今晩、お前達のうちの6人は、板歩きの刑だ。だが2人は、この船のキャビン・ボーイにしてやろう。キャビン・ボーイになりたいと思うのは、誰だ?」
 「無駄にフックを怒らせては駄目よ。」というのが、船倉の中でウェンディが言い聞かせていたことだった。そこで、トゥートゥルズは、恭しく足を踏み出した。トゥートゥルズは、こんな男の配下となって働くのは嫌であった。しかし本能的に、今ここにいない者に責任を背負わせるのが賢明であることが分かっていた。そういう訳で、あまり機転の利かない子ではあったのだが、このような時に間に入ってくれるのは、母親だけであることを知っていたのである。子供達は全てこの事実を弁えており、このことを理由として母親を軽蔑し、そして常に利用するのである。

 母親は、子供のためならどんな辛い事でもしてくれる。子供はこのことを当り前のこととして、醒めきった気持ちで母親の愛を利用する。子供達と母親の関係に対する冷徹で、そしてこの上無く的確な総括である。

用語メモ
 scugs:ぱっとしない学生、見栄えのしない人のことを言う。パブリック・スクール時代以来の、フックに染み付いた言葉遣いなのであろう。船員用語と学生用語がフックの言葉遣いの特徴をなしている。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm



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