Archive for 15 May 2006

15 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 180


 Perhaps John had not behaved very well so far, but he shone out now.
 "Then I refuse," he cried, banging the barrel in front of Hook.
 "And I refuse," cried Michael.
 "Rule Britannia!" squeaked Curly.
 The infuriated pirates buffeted them in the mouth; and Hook roared out, "That seals your doom. Bring up their mother. Get the plank ready."
 They were only boys, and they went white as they saw Jukes and Cecco preparing the fatal plank. But they tried to look brave when Wendy was brought up.
 No words of mine can tell you how Wendy despised those pirates. To the boys there was at least some glamour in the pirate calling; but all that she saw was that the ship had not been tidied for years. There was not a porthole on the grimy glass of which you might not have written with your finger "Dirty pig"; and she had already written it on several. But as the boys gathered round her she had no thought, of course, save for them.
 "So, my beauty," said Hook, as if he spoke in syrup, "you are to see your children walk the plank."
 Fine gentlemen though he was, the intensity of his communings had soiled his ruff, and suddenly he knew that she was gazing at it. With a hasty gesture he tried to hide it, but he was too late.

 これまでのジョンの振る舞いは、あまり立派なものではなかったかもしれない。しかしここで彼は気概を示した。
 「じゃあ、海賊になるのは断る。」こう叫んで、フックの前の樽を蹴飛ばしたのである。
 「じゃあ、僕も断る。」マイケルも叫んだ。
 「イギリス国王、万歳!」カーリーも叫んだ。
 猛り狂った海賊達は、子供達の頬に平手打ちをくわせた。そしてフックが怒鳴った。「その言葉が、お前達の運命を決めたぞ。こいつらのお母さんを引き出せ。板歩きの刑の準備だ。」
 みんな、幼い子供達だった。彼等は、ジュークスとチェッコが処刑の板を据え付けるのを見て、顔面蒼白になった。しかしウェンディが引き出されてくると、子供達は腹の据わった顔つきを装ってみようとしたのである。
 ウェンディがこの海賊達を軽蔑する気持ちの強さは、筆には尽くしようがない。男の子達には、海賊稼業は幾分かの憧れの気持ちをかき立てるところがあった。しかしウェンディの目に入った海賊船の有り様は、もう何年も掃除をしていないことが歴然としていた。舷窓にはまったガラスで、“掃除しろ”と指で書き込みたくなりたくならなかったものなど、一つも無かった。実際、ウェンディは、既に何枚かにこの文字を書いてしまっていた。だが男の子達が自分の周囲に寄り集まった時、ウェンディの頭には、この子達の命を救うこと以外は何も無かった。
 「さてお嬢ちゃん、これで、」フックは甘ったるい声で語りかけた。「子供達が、板歩きの刑を受けるのを見ることができますぞ。」
 立派な風采をした紳士ではありながら、フックはこれまでの激しいやりとりのために、襞襟が汚れてしまっていた。そしてフックは、突然ウェンディが彼の襞襟に目を止めているのに気付いた。急いで彼女の目からこれを隠そうとしたが、もう遅かった。

 フックは、自ら選んだ理念を最後まで忠実に遂行する殉教者である。子供達は反逆者に対して憧れの気持ちを抱きはしても、最後には首謀者を見捨てて権力のもとに走る偽善者である。しかし最終的な勝利の最中にも、フックは自分自身の姿を他者の目から怜悧に見つめる、自省の心を抱かずにはいられない。これがフックの唯一の弱点であり、彼の全ての不幸の発端となったものであろう。

用語メモ
 buffet:続けざまに平手で打つ動作。こらしめる時に用いる。
 porthole:舷窓
 Dirty pig:喧嘩の時などに相手をののしる言葉として用いられるが、この場合は汚い窓ガラスに悪戯で書き込む、お決まりの文字のことであろう。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm



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