Archive for 17 May 2006

17 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 182


 Hook smiled on them with his teeth closed, and took a step toward Wendy. His intention was to turn her face so that she should see the boys walking the plank one by one. But he never reached her, he never heard the cry of anguish he hoped to wring from her. He heard something else instead.
 It was the terrible tick-tick of the crocodile.
 They all heard it -- pirates, boys, Wendy; and immediately every head was blown in one direction; not to the water whence the sound proceeded, but toward Hook. All knew that what was about to happen concerned him alone, and that from being actors they were suddenly become spectators.

 フックは歯を噛み締めたまま、子供達の方に笑いかけた。そしてウェンディの方に、一歩足を進めた。それは、ウェンディがこちらを振り向いて、子供達が一人ずつ処刑板の上を歩く様を目に止めるようにするためであった。けれどもフックは、ウェンディのところまで行き着くことはなかった。フックは、ウェンディにあげさせようと思っていた苦悩に満ちた悲鳴の声を耳にすることはなかったのである。その代りにフックの耳に入ったのは、別の物音だった。
 それは、鰐の立てる恐ろしい時計の音だった。
 そこにいるもの達が、全員その音を耳にした。海賊達も、子供達も、ウェンディもである。そして全員の首が、一斉に風に吹かれたように同じ方向を向いた。しかしそれは、この音が聞こえて来た水面の方ではなく、フックの方にだった。誰もが、これから起こることはフックにのみ関わりがあることであり、フック以外のもの達は皆、行為の当事者の座を明け渡し、いきなり傍観者へと役割を変えたことを知っていたのである。

 ここで場面の中心人物としての役割がシフトしてフックのものへと換わったのではなく、本来この物語に描かれている全ての出来事が、フック自身の心の内部のものであったことが暗示されている。そもそもネヴァランドを生起させ、存続させることができたその発端となるべき苦悩も疑念も、教養も才覚も、心の深さと理解の幅も、人格としての厚みもフックをおいて引受けるべきものは他にはいなかったのである。

用語メモ
 spectator:劇や事件を見届ける“観衆”もこの言葉を用いて語られるが、別の言葉を用いれば“bystander”、あるいは“onlooker”、つまり“傍観者”に相違ないものである。フック以外のだれもが、このお話のクライマックスを無責任な傍観者の立場から見つめることになるのである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



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◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




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