Archive for 19 May 2006

19 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 184


Chapter 15

"HOOK OR ME THIS TIME"

 Odd things happen to all of us on our way through life without our noticing for a time that they have happened. Thus, to take an instance, we suddenly discover that we have been deaf in one ear for we don't know how long, but, say, half an hour. Now such an experience had come that night to Peter. When last we saw him he was stealing across the island with one finger to his lips and his dagger at the ready. He had seen the crocodile pass by without noticing anything peculiar about it, but by and by he remembered that it had not been ticking. At first he thought this eerie, but soon concluded rightly that the clock had run down.
 Without giving a thought to what might be the feelings of a fellow-creature thus abruptly deprived of its closest companion, Peter began to consider how he could turn the catastrophe to his own use; and he decided to tick, so that wild beasts should believe he was the crocodile and let him pass unmolested. He ticked superbly, but with one unforeseen result. The crocodile was among those who heard the sound, and it followed him, though whether with the purpose of regaining what it had lost, or merely as a friend under the belief that it was again ticking itself, will never be certainly known, for, like slaves to a fixed idea, it was a stupid beast.

 我々の人生においては、気付きもしないうちにいつの間にか奇妙なことが起こってしまっていた、ということがあるものである。例えば、ふと気付いてみたら、良く分からないけれどおそらく半時間ほども前から片方の耳が聞こえなくなっていた、というような具合だ。この晩ピーターにも、これと類したことが起こっていた。最後に我々が彼の姿を目にした時には、ピーターは短剣を構えて、指を唇に当てたまま歩を進めているところであった。ピーターは鰐が傍らを通り過ぎるのを目にして、とりわけ変わったところがあるとも思わなかった。しかし、しばらくしてから、この鰐が時計の音を立てるのを止めていたことを思い出した。最初は、このことはおかしなことに思えた。しかし時計のネジが切れたことと、すぐに思い当たったのである。
 こんなに親しい連れを突然奪われてしまった同じ生き物の気持ちが、どんなものであるか思いやることもなしに、ピーターはこの件を自分の役に立てるにはどうしたらよいか考え始めた。そしてピーターは、野獣達がピーターのことを鰐だと思って、ピーターの邪魔をすることなしに通してくれるように、鰐の真似をして時計の音を立てることにしたのである。それは素晴らしくうまくいった。しかも、思ってもいなかった結果を生み出したのである。鰐もまたピーターの真似た時計の音を耳にし、ピーターの後に付いて来たのである。自分が失ったものを再び手に入れようと思ったのか、あるいは長い間連れであった時計が再び音を立て始めたと信じ込んだのかは、定かではない。この鰐は、一つの考えに取り憑かれてしまった盲信者のように、鈍重な生き物だった。

 ピーターも鰐も時計(ticking)も、フックという存在から生成した分身的要素の各々として理解することができるだろう。ここでは、これらの派生的要素同士の間でさらなる統合、分裂という事態が生起しているとも考えられる。このように人格の分離あるいは統合の過程として、宇宙と自然の生成と発展、あるいは消滅を捉えようと試みる発想は、形而上学的な霊性を考察する一種の心理学として、実は古代から継承されて来たものであった。

用語メモ
 神格統合/分離:神話や宗教に関する分析においては、複数の神格が一つに統合される、あるいは一つの神格がいくつかの下位神格に分離される例は、歴史上しばしば見出される事実なのである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




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