Archive for 20 May 2006

20 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 185


 Peter reached the shore without mishap, and went straight on, his legs encountering the water as if quite unaware that they had entered a new element. Thus many animals pass from land to water, but no other human of whom I know. As he swam he had but one thought: "Hook or me this time." He had ticked so long that he now went on ticking without knowing that he was doing it. Had he known he would have stopped, for to board the brig by help of the tick, though an ingenious idea, had not occurred to him.
 On the contrary, he thought he had scaled her side as noiseless as a mouse; and he was amazed to see the pirates cowering from him, with Hook in their midst as abject as if he had heard the crocodile.
 The crocodile! No sooner did Peter remember it than he heard the ticking. At first the thought the sound did come from the crocodile, and he looked behind him swiftly. Then he realized that he was doing it himself, and in a flash he understood the situation. "How clever of me!" he thought at once, and signed to the boys not to burst into applause.

 ピーターは何の障害もなく岸辺までたどり着き、そのまま海の中に進んで行った。これまでとは全くことなる要素に足を踏み入れたことを、気にも止めていないようであった。多くの動物達は、こうして陸から水へと移動する。しかし、このようなことができる人間は、ピーター以外に私は知らない。泳ぎながらピーターの頭の中には、一つの考えしかなかった。「死ぬのはフックか僕のどちらかだ。」もう長い間時計の音を立てていたので、そうしているという意識もなく、さらに続けていた。もしもピーターが気付いていたならば、もう止めていたことだろう。この音を立てることによって容易に海賊船に乗り込める、などという賢しい考えは、彼には思いもよらないものであった。
 そればかりでなくピーターは、自分がねずみのように音もなく海賊船の脇をかすめてきたとさえ思っていた。だから、海賊達が怯えきって逃げ出すのを見て、驚いたのである。手下共に囲まれたフックの姿は、鰐の立てる時計の音を聞いた時のように萎れ果てていた。
 鰐か!このことを思い出した途端、ピーターは時計の音を耳にした。最初は、この音を立てているのは鰐だと思った。そして、素早く後ろを振り向いたのである。それからピーターは、この音を立てているのが自分であることに気付いた。そして瞬時のうちに、現在の状況を把握したのである。「僕はなんて頭がいいんだ!」ピーターはこう思った。そして子供達に歓喜の叫びを上げないようにと、身振りで示した。

 ピーターをいつも支配しているのは、自意識の対極的な部分を成す、無意識の力である。だから思い悩むこともなければ、とまどったりしくじったりすることもない。どんな環境の変化にも、新しい状況にも易々と対処することができるのは、そのためである。
 ピーターは、常に一切の計画や工夫を行うことなく無思慮に行動し、その結果の素晴らしさに酔いしれて、自己の賢明さに感じ入ることができる。自分自身に対する驚嘆と賞賛の念は、天才を形成する主要条件の一つである。自分の能力に対する感動があるからこそ、その行為が並外れて優れたものとなり得るのである。その逆では決してない。ピーターが、現実世界を支配する時間の流れの方向性と因果関係の連鎖という普遍的制約を越えた、個有の法則性から成り立つ独特の宇宙を生きていることが分かる。

用語メモ
 因果関係:ある事象の原因となるべき既定の条件があり、他の諸条件との相関の結果、次なる事象を生み出すことと通常考えられている。しかしピーターにとっての“因果関係”は、時間軸が逆に進むことを許すものである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm



00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks