Archive for 22 May 2006

22 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 187


 To terrorize the prisoners the more, though with a certain loss of dignity, he danced along an imaginary plank, grimacing at them as he sang; and when he finished he cried, "Do you want a touch of the cat before you walk the plank?"
 At that they fell on their knees. "No, no!" they cried so piteously that every pirate smiled.
 "Fetch the cat, Jukes," said Hook; "it's in the cabin."
 The cabin! Peter was in the cabin! The children gazed at each other.
 "Ay, ay," said Jukes blithely, and he strode into the cabin. They followed him with their eyes; they scarce knew that Hook had resumed his song, his dogs joining in with him:

"Yo ho, yo ho, the scratching cat,
Its tails are nine, you know,
And when they're writ upon your back -- "

 What was the last line will never be known, for of a sudden the song was stayed by a dreadful screech from the cabin. It wailed through the ship, and died away. Then was heard a crowing sound which was well understood by the boys, but to the pirates was almost more eerie than the screech.
 "What was that?" cried Hook.
 "Two," said Slightly solemnly.

 処刑を待つ子供達をさらに恐怖に陥れるために、威厳は幾分損なわれるものの、フックは処刑板の上を歩く様を装って見せた。そして歌いながら、子供達を無気味に睨み付けたのである。これが終わるとフックは叫んだ。「さて、板の上に乗る前に、猫に一撫でして欲しいか?」
 これを聞くと、子供達は一斉に跪いた。「止めて、止めて!」あまりに哀れな声で嘆願したので、海賊達はみなほくそ笑んだ。
 「猫を連れて来い、ジュークス。」フックは命じた。「キャビンの中だ。」
 キャビン!ピーターは、キャビンに潜んでいる!子供達は顔を見合わせた。
 「承知しました。」ジュークスは、揚々として答えた。そしてキャビンに足を踏み入れた。子供達は、彼の姿を目で追った。子供達には、フックが唄の続きを始めたのも耳に入らなかった。手下共も一緒に歌い始めていた。

  ヨー、ホー。ヨー、ホー。鋭い爪の猫。
   尻尾は9本。知っての通り。
  そして背中にそれを刻まれる時は、

 最後の1行がどのようなものであったかは、決して知られることはないだろう。突然この唄は、キャビンから響いて来た恐ろしい悲鳴にかき消されたからだ。その叫びは船上を響き渡り、そして消えて行った。その後に、喉を鳴らす笑い声が続いた。これは、子供達にはお馴染みの声であった。しかしそれは、海賊達には、先程の悲鳴よりもさらに薄気味悪いものに思えた。
 「何だ、あれは?」フックが叫んだ。
 「二人目。」スライトリーが重々しい声で言った。

 これから子供達と入れ替わって、海賊達が次々と残酷な処刑を行われて行くことになる。子供達の観点からは、被害者は悪者の海賊なので、どれほど恐ろしい目に遭わされて命を失っても、一向に構わないのである。子供特有のご都合主義に基づく超倫理的利己主義感覚が、いかなる反省も懐疑も胸の裡に沸き上がることを妨げている。実はこれこそが、うらやむべき子供達の精神の安寧の正体に他ならない。

用語メモ
 悪(evil):自分の属する陣営に敵対する側を“悪”と決めつけて、いかなる残虐行為でも行うことができた時代と事例は、実はさほど遠い過去でも、かけ離れた別世界でもない。しかし冷静に我が身を振り返って、自分が決して絶対的に正しい正義の陣営に属している訳でもなく、自分達の行動の全てが倫理的に容赦されるべきものでもないことを理解するだけの、悲しい客観的把握力を身に付けてしまったのが現代人である。もはや自分が選ばれた“良い子”でも、温和な“神の子羊”でもないことを知ってしまった率直な狼の群として、我々は生きている。



◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




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