Archive for 23 May 2006

23 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 188


 The Italian Cecco hesitated for a moment and then swung into the cabin. He tottered out, haggard.
 "What's the matter with Bill Jukes, you dog?" hissed Hook, towering over him.
 "The matter wi' him is he's dead, stabbed," replied Cecco in a hollow voice.
 "Bill Jukes dead!" cried the startled pirates.
 "The cabin's as black as a pit," Cecco said, almost gibbering, "but there is something terrible in there: the thing you heard crowing."
 The exultation of the boys, the lowering looks of the pirates, both were seen by Hook.
 "Cecco," he said in his most steely voice, "go back and fetch me out that doodle-doo."
 Cecco, bravest of the brave, cowered before his captain, crying "No, no"; but Hook was purring to his claw.
 "Did you say you would go, Cecco?" he said musingly.
 Cecco went, first flinging his arms despairingly. There was no more singing, all listened now; and again came a death-screech and again a crow.
 No one spoke except Slightly. "Three," he said.

 イタリア人のチェッコは、一瞬ためらいはしたものの、直ぐにキャビンに飛び込んだ。しかしチェッコは、青ざめた顔でよろめき出て来た。
 「ビル・ジュークスは、どうした?」チェッコの前に立ちはだかって、フックは尋ねた。
 「ビルに何が起こったかというと、刺されて、死んでました。」虚ろな声でチェッコは答えた。
 「ビル・ジュークスは、死んだ!」海賊達は、驚いて叫んだ。
 「キャビンは、穴蔵みたいに真っ暗でした。」こう話すチェッコは、熱にうなされているようだった。「でも、何か恐ろしいものが、そこにいました。あの声をあげた奴です。」
 子供達の顔に浮かんだ喜びの表情と、海賊達の沈んだ顔つきの両方を、フックは見た。
 「チェッコ、」フックは、この上なく厳しい声で言った。「キャビンに戻って、そいつを俺の前に連れて来い。」
 「怖れ知らずの者達の中でも最も恐れを知らないチェッコが、キャビンの前で体を怯ませていた。チェッコは、泣き叫ぶような声で言った。「嫌だ。行きたくない。」しかしフックは、鉤爪に向かって囁きかけていた。
 「行きたいと言ったんだな、チェッコ。」目を細めながら、フックは言った。
 チェッコは、自暴自棄に両手をふりまわしながら、キャビンに入って行った。もう歌うのは止めて、誰もが耳を澄ませていた。再び断末魔の叫びが発せられ、再び喉を鳴らす笑い声が響いた。
 スライトリー以外に、言葉を発したものは無かった。「3人目。」スライトリーは言った。

 劇的に大団円を迎えようとしているお話が、演出効果を最高に高めながら進行していく。残虐さと無気味さを、欠かせない美学の条件として喜ぶ子供達の無意識の期待が、この場面を具現化させつつあるのかもしれない。しかし、期待の全てが実現化した後の思いも依らない真の悲劇が、彼等を待ち受けているのである。

用語メモ
 期待:かくあるべし、という心の中の願望である。これが具体的な目標として共有された時に、“理想”という言葉で呼ばれることになる。しかし理想を支えるべき幻想は、その内部にある矛盾やその結果の秘める実相に対して、しばしば盲目的でしかない。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




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