Archive for 25 May 2006

25 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 190


 "Something blew out the light," he said a little unsteadily.
 "Something!" echoed Mullins.
 "What of Cecco?" demanded Noodler.
 "He's as dead as Jukes," said Hook shortly.
 His reluctance to return to the cabin impressed them all unfavourably, and the mutinous sounds again broke forth. All pirates are superstitious, and Cookson cried, "They do say the surest sign a ship's accurst is when there's one on board more than can be accounted for."
 "I've heard," muttered Mullins, "he always boards the pirate craft last. Had he a tail, captain?"
 "They say," said another, looking viciously at Hook, "that when he comes it's in the likeness of the wickedest man aboard."
 "Had he a hook, captain?" asked Cookson insolently; and one after another took up the cry, "The ship's doomed!" At this the children could not resist raising a cheer. Hook had well-nigh forgotten his prisoners, but as he swung round on them now his face lit up again.
 "Lads," he cried to his crew, "now here's a notion. Open the cabin door and drive them in. Let them fight the doodle-doo for their lives. If they kill him, we're so much the better; if he kills them, we're none the worse."

 「何物かが、灯りを吹き消したんだ。」フックは少しうろたえた様子で言った。
 「何物か?」声を合わせるように、マリンズが叫んだ。
 「チェッコは、どうなってました?」ヌードラーが、問いただした。
 「ジュークスと同じだ。死んでいた。」フックは、短く答えた。
 フックがキャビンに戻ることを嫌がっている様子は、海賊達に悪印象を与えた。そして、叛乱を企てようとするような声が漏れて来た。海賊はみな、とても迷信深いものだ。クックソンが叫んだ。「船に悪霊が取り憑いた時は、訳の分からない奴が一人余分にいる時だと言いますぜ。」
 「そう言えば、」マリンズもつぶやいた。「そいつは海賊船には、必ず最後に乗り込むと聞きましたぜ。そいつには、尻尾はありましたか?」
 「そうだ、」また別の男が、悪意のある目つきをフックに向けながら言った。「そいつは、船で一番の悪党と同じ姿をしていると言うぞ。」
 「そいつは、鉤爪がありましたか、親分?」無礼にも、クックソンが尋ねた。海賊共は、一人一人が叫び始めた。「この船は、呪われている。」これを聞いて子供達は、歓声を挙げずにはいられなくなった。フックは、ほとんど囚人達のことを忘れてしまうところだった。しかし子供達の方を振り向いた時、フックの顔には晴れやかな表情が浮かんだ。
 「野郎共、」フックは、手下達に命じた。「俺にいい考えがある。キャビンのドアを開けて、この餓鬼共を追い込むんだ。こいつらに奴と戦わせよう。餓鬼共が奴を殺してくれれば、それで万々歳だ。もしも餓鬼共が殺されても、何の損もない。」

 あたかも無気味な妖怪として知られる座敷童子のように、不可解な余剰人員として呪いを招くピーターの存在は、フックの影としての機能を存分に果たしている。クックソンの言葉は、呪われた運命の具現化である怪物が、フック自身の分身であることをあからさまに語っている。そして、ピーターを支配するものが無意識の覚知であるのに対して、フックの行動をここで支配しているのは、常に彼の身の破滅を近付ける天の邪鬼の性向である。フックに害をなすこれらの二つの存在は、実は同一のものなのである。

用語メモ
 分身(doppelganger):自分と同一の姿形をしたもう一人の人物として現れるという、ドイツに語り伝えられた伝説の悪霊である。同様の伝承が様々の国々に存在する。むしろこれらの不吉な存在は、本体である人物の個有の性癖によって生成せしめられたものである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




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