Archive for 26 May 2006

26 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 191


 For the last time his dogs admired Hook, and devotedly they did his bidding. The boys, pretending to struggle, were pushed into the cabin and the door was closed on them.
 "Now, listen!" cried Hook, and all listened. But not one dared to face the door. Yes, one, Wendy, who all this time had been bound to the mast. It was for neither a scream nor a crow that she was watching, it was for the reappearance of Peter.
 She had not long to wait. In the cabin he had found the thing for which he had gone in search: the key that would free the children of their manacles, and now they all stole forth, armed with such weapons as they could find. First signing them to hide, Peter cut Wendy's bonds, and then nothing could have been easier than for them all to fly off together; but one thing barred the way, an oath, "Hook or me this time." So when he had freed Wendy, he whispered to her to conceal herself with the others, and himself took her place by the mast, her cloak around him so that he should pass for her. Then he took a great breath and crowed.
 To the pirates it was a voice crying that all the boys lay slain in the cabin; and they were panic-stricken. Hook tried to hearten them; but like the dogs he had made them they showed him their fangs, and he knew that if he took his eyes off them now they would leap at him.
 "Lads," he said, ready to cajole or strike as need be, but never quailing for an instant, "I've thought it out. There's a Jonah aboard."
 "Ay," they snarled, "a man wi' a hook."

 この時だけは、手下共もフックに感服した。彼等は忠実に親分の命令に従った。子供達は抵抗する振りをして、キャビンの中に押し込まれ、そして扉が閉められた。
 「さあ、聞いていろよ!」フックが叫んだ。全員が耳を澄ませた。しかし、一人として扉の方に目を向けることのできる者は、いなかった。いや、一人だけいた。それはウェンディだった。ウェンディは、ずっとマストに縛り付けられたままだった。ウェンディが目を向けて待ち構えていたのは、悲鳴でも喉を鳴らす笑い声でもなかった。ピーターが再び姿を見せるのを、待ち構えていたのだ。
 ウェンディは、長く待たされることもなかった。キャビンの中で、ピーターは探していたものを見つけ出していた。それは、手枷の錠を開ける鍵だった。そして今、子供達は全員キャビンから抜け出てきた。それぞれが、見つけた武器を手にしていた。最初に子供達に姿を隠すように命じると、ピーターはウェンディを縛り付けていたロープを解いた。その後は、全員が空に舞い上がるのは、いとも容易いことだった。しかし一つだけ、逃げて行くことを妨げるものがあった。それは、「死ぬのはフックか僕のどちらかだ」というあの誓いであった。ウェンディのいましめを解くと、ピーターは他の子供達と一緒に身を隠すようにと、声をひそめて命じた。そしてウェンディの服を見にまとい、マストに縛り付けられたウェンディの姿を装ったのである。そしてピーターは大きく息をつき、喉を鳴らして高々と笑った。
 海賊達にとっては、それは子供達の全員がキャビンで命を失ったことを告げる声だった。海賊達はひどい混乱に陥った。フックは、何とか彼等の勇気を奮いたたせようとした。しかし、犬のように従順な手下であった海賊達は、今度は犬のように飼い主の手を噛もうとしていた。フックは、目を離せば即座に手下共が襲いかかって来るであろうことを理解した。
 「野郎共、」フックは、必要があれば甘言でたらし込むことも、有無を言わさず打ち倒すこともできる態勢で、しかしいささかも臆することなく呼び掛けた。「俺は考えてみた。どうやらこの船には、ヨナが乗り込んだようだな。」
 「その通りでさ。」手下共は、うなるように答えた。「そしてそいつの手には、鍵爪がついている。」

 フックは、ピーターとの抗争の場であるネヴァランドで、彼のアイデンティティを保障するはずだったものを順番に失いつつある。三つ巴の戦いを演じていた勢力の一つであったインディアンは既に滅ぼされ、今度は手下の海賊達を全員失うことになるのである。

用語メモ
 ヨナ記(The Book of Jonah):神の命じた地へ赴くことを拒んだため、幾度も乗り込んだ船を難破させられたというヨナの名前は、船員にとっては疫病神の代名詞であった。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm




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