Archive for 29 May 2006

29 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 194


 Without more words they fell to, and for a space there was no advantage to either blade. Peter was a superb swordsman, and parried with dazzling rapidity; ever and anon he followed up a feint with a lunge that got past his foe's defence, but his shorter reach stood him in ill stead, and he could not drive the steel home. Hook, scarcely his inferior in brilliancy, but not quite so nimble in wrist play, forced him back by the weight of his onset, hoping suddenly to end all with a favourite thrust, taught him long ago by Barbecue at Rio; but to his astonishment he found this thrust turned aside again and again. Then he sought to close and give the quietus with his iron hook, which all this time had been pawing the air; but Peter doubled under it and, lunging fiercely, pierced him in the ribs. At the sight of his own blood, whose peculiar colour, you remember, was offensive to him, the sword fell from Hook's hand, and he was at Peter's mercy.
 "Now!" cried all the boys, but with a magnificent gesture Peter invited his opponent to pick up his sword. Hook did so instantly, but with a tragic feeling th at Peter was showing good form.

 これ以上空言を弄することもなく、二人は剣を交えた。さしあたっては、いずれの側にもことさら有利な点は見つからなかった。ピーターは、優れた剣の使い手だった。驚くべき素早さで、敵の剣を受け流した。時折ピーターは、巧みな牽制から鋭い突きを繰り出し、相手の防御を突破することに成功したが、腕の長さが足りないため、十分な深さまで剣を突き立てることはできなかった。フックも、剣の腕前にかけてはいささかも劣ることはなかった。ピーターほどの手首の返しの巧みさはなかったものの、圧力の強さで相手を押し返し、得意の一撃で一気に勝負を決しようと目論んでいた。これは遠い昔、リオでバーベキュー船長に手ほどきを受けた戦法なのであった。しかし驚いたことに、彼の快心の一撃は、数度に渡り見事にかわされたのであった。次にフックは、これまで無駄に宙をさまよっていた彼の鉤爪を用いて、敵に致命的な一撃を与えようと試みた。しかしピーターは身を屈めてこの攻撃をかわし、鋭い突きを加えてフックの脇腹に傷を負わせた。自分の流す血の色を目にするや、ご存じのようにその独特の色合いはフックの気に触るものであったので、フックは思わず剣を取り落としてしまった。そして、ピーターのなすがままとなった。
 「今だ!」全ての子供達が叫んだ。しかしピーターは、堂々たる物腰で相手に剣を拾い上げるように促した。フックは迷わず剣を取った。しかし、ピーターがグッド・フォームを見せつけているという、痛切な思いを感じずにはいられなかった。

 見事な剣を取っての戦いの場面の描写である。しかし、ピーターが分極生成したフックの分身であるならば、彼等の物理的なコンタクトはあり得ないだろう。おそらくは、本体であるフックの損傷感覚という幻想があるのみであろう。己の流した血の色を目にしたフックの変化は、フックの自意識が励起したことを示すものであると思われる。

用語メモ
 quietus:“決算”、あるいは“清算”の意をなす言葉である。そこから人生の総勘定、すなわち“死”を意味する語として用いられる。“give a person his quietus”で“息の根を止める”となる。




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