Archive for 03 May 2006

03 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 168


 "Why, Tink, how dare you drink my medicine?"
 But she did not answer. Already she was reeling in the air.
 "What is the matter with you?" cried Peter, suddenly afraid.
 "It was poisoned, Peter," she told him softly; "and now I am going to be dead."
 "O Tink, did you drink it to save me?"
 "Yes."
 "But why, Tink?"
 Her wings would scarcely carry her now, but in reply she alighted on his shoulder and gave his nose a loving bite. She whispered in his ear "You silly ass," and then, tottering to her chamber, lay down on the bed.
 His head almost filled the fourth wall of her little room as he knelt near her in distress. Every moment her light was growing fainter; and he knew that if it went out she would be no more. She liked his tears so much that she put out her beautiful finger and let them run over it.
 Her voice was so low that at first he could not make out what she said. Then he made it out. She was saying that she thought she could get well again if children believed in fairies.

 「どうして僕のお薬を飲んじゃうんだい、ティンク?」
 けれども、ティンクから答えはなかった。もうティンクの体は、宙をふらついていた。
 「何がおこったんだ。」ピーターは、突然恐怖にかられて叫んだ。
 「お薬には毒が入っていたんだよ、ピーター。」ティンクは小さい声で言った。「私はもう死ぬよ。」
 「ティンク、僕を助けるために毒を飲んだのかい?」
 「そうだよ。」
 「でも、どうして。」
 もうティンクは、宙に浮いていることも出来なかった。返事をする代りにピーターの肩にとまって、ピーターの鼻にやさしく噛み付いたのだった。そしてティンクは、ピーターの耳に囁いた。「この、間抜け。」それから、ふらふらと自分の部屋まで飛んで行って、ベッドの中に倒れ込んだ。
 悲嘆にくれたピーターが跪くと、ピーターの頭は小さなティンクの部屋の一方の壁を塞いでしまった。見るまにティンクの体の輝きは薄れていった。そしてピーターには、この輝きが消えた時が、ティンクの命の亡くなる時だということが分かった。ティンクは、ピーターの流す涙がとても気に入ったので、きれいな指を伸ばして、その指の上に涙を転がした。
 ティンクが口にした言葉は、とてもかすかなものだったので、最初はピーターには、何と言ったのか聞き取れなかった。それからピーターは、その内容を理解した。ティンクは、もしも子供達が妖精の存在を信じてくれれば、生き返ることが出来ると思う、と言っているのだった。

 子供達が妖精の存在を信じれば、妖精が生き返るという。ここでは妖精の存在と人間の精神を連結する、隠れた宇宙の構造原理の存在が暗示されている。19世紀から20世紀初めにかけて、妖精や精霊という伝承上の存在達の保持する意義性に対して形而上的な再評価の試みを行った、神智学的霊性解釈の発想が、戯画的に反映されている部分である。

用語メモ
 神智学(theosophy):従来のキリスト教的教義にとらわれることなく、合理的科学思考によって人間の霊性と世界の構成原理を統合的に解釈しようと企図した試みの代表的な一例である。実は近世以来、宗教と科学の合体を目標にした統一理論に対する希求の念は、様々の界面で現出していたのである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm



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