Archive for 04 May 2006

04 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 169


 Peter flung out his arms. There were no children there, and it was night time; but he addressed all who might be dreaming of the Neverland, and who were therefore nearer to him than you think: boys and girls in their nighties, and naked papooses in their baskets hung from trees.
 "Do you believe?" he cried.
 Tink sat up in bed almost briskly to listen to her fate.
 She fancied she heard answers in the affirmative, and then again she wasn't sure.
 "What do you think?" she asked Peter.
 "If you believe," he shouted to them, "clap your hands; don't let Tink die."
 Many clapped.
 Some didn't.
 A few beasts hissed.
 The clapping stopped suddenly; as if countless mothers had rushed to their nurseries to see what on earth was happening; but already Tink was saved. First her voice grew strong, then she popped out of bed, then she was flashing through the room more merry and impudent than ever. She never thought of thanking those who believed, but she would have liked to get at the ones who had hissed.
 "And now to rescue Wendy!"

 ピーターは、両手を差し伸べた。そこには子供は一人もいなくて、しかも夜だった。けれども彼は、ネバーランドのことを夢に見ているかもしれない、だから自分で思っているより本当は彼の近くにいる、全ての子供達に呼びかけたのだった。寝巻を着た男の子にも女の子にも、木にぶらさげられた籠の中の裸のインディアンの赤ちゃんにも。
 「君たちは妖精を信じるかい?」ピーターは叫んだ。
 ティンクは、自分の運命を決する答えを聞こうと、勢い良くベッドの上で体を起こした。
 ティンクの耳には、肯んじる答えが聞こえたように思えた。でも次の瞬間、そうでないようにも思えた。
 「どっちだと思う?」ティンクはピーターに尋ねた。
 「もしも信じるなら、手を叩いてくれ。ティンクを、死なせないでくれ。」ピーターは、みんなに呼び掛けた。
 沢山の子供達が手を叩いた。
 手を叩かない子供達もいた。
 ふんっ、と鼻を鳴らした、意地悪の子供達もいた。
 手を叩く音は、突然止んだ。あたかも大勢の母親達が、一体何が起ころうとしているのかを確かめに、子供部屋に飛び込んで来たかのようだった。だが、既にティンクの命は救われていたのだった。最初に、ティンクの声が力強くなってきた。それから、ティンクはベッドから飛び出した。そしてティンクはこれまで以上に陽気な、そして無遠慮な様子で部屋の中を飛び回っていた。ティンクは、妖精のことを信じてくれた子供達に感謝しようなどという気持ちは、全く抱かなかった。しかし、鼻を鳴らした子供達に対しては、ひどい目に遭わせてやりたいと思っていた。
 「さあ、今からウェンディを助けに行くぞ。」

 子供達の意思表示の力によって、妖精の死を無効にするという手順の存在が示されている。ネバーランドという心の中の領域を媒介として、フィクション世界と現実世界の境界さえも越えて、生死を超越した潜勢力として機能する、宇宙の構成原理の所在が提示されているのである。これはピーターの存在の秘密の一端を形成する要素である。しかし、人間精神と妖精の存在を結び付ける宇宙の根原的原理機構は、人間界の既存の倫理などといった範疇を越えた、超然とした苛酷なものとしてあるがままの自然の中にあることが暗示されてもいる。作者バリのロマン主義思想に対する冷徹な距離を置いたスタンスであり、このお話のアンチ・ファンタシー的傾向を示唆する部分でもあろう。

用語メモ
 papoose:インディアンの言葉で、“赤ん坊”を意味する語である。“papoose board”といえば、赤ちゃんを入れておくために背中にぶらさげて用いる“背負い板”のことである。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇平成17年12月21日和洋女子大学にて開催の
“ポエトリー・リーディング”
において行った朗読、「“Frivolous Cake”ー“浮気なケーキ”を読む」をアップロードしました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/speech/cake/cake.html

◇“公開講座8” The Last Unicorn『最後のユニコーン』の世界
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/H17E_fest/eibun.htm

◇“公開講座9”:自分との共生
ジャンヌ・ダルクの影とナウシカの影 ―神や悪魔として現れるものたち
を追加しました。
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/joan/joan.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:アンチ・ファンタシーの中のヒーロー(英雄)―『最後のユニコーン』のアンチ・ロマンス的諧謔性とファンタシー的憧憬”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/antiromance.htm




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