Archive for 06 May 2006

06 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 171


 There was no other course but to press forward in redskin fashion, at which happily he was an adept. But in what direction, for he could not be sure that the children had been taken to the ship? A light fall of snow had obliterated all footmarks; and a deathly silence pervaded the island, as if for a space Nature stood still in horror of the recent carnage. He had taught the children something of the forest lore that he had himself learned from Tiger Lily and Tinker Bell, and knew that in their dire hour they were not likely to forget it. Slightly, if he had an opportunity, would blaze the trees, for instance, Curly would drop seeds, and Wendy would leave her handkerchief at some important place. The morning was needed to search for such guidance, and he could not wait. The upper world had called him, but would give no help.
 The crocodile passed him, but not another living thing, not a sound, not a movement; and yet he knew well that sudden death might be at the next tree, or stalking him from behind.
 He swore this terrible oath: "Hook or me this time."
 Now he crawled forward like a snake, and again erect, he darted across a space on which the moonlight played, one finger on his lip and his dagger at the ready. He was frightfully happy.

 インディアンのやり方で忍び寄って行くしか、他に手は無かった。幸運なことに、ピーターはこれも得意だった。しかしどちらの方角へ向かえば良いのだろうか?子供達が連れられて行ったのが海賊船なのかどうかは、確かではなかった。雪が薄く積もって、全ての足跡を消してしまっていた。死のような静けさが島を包み込み、あたかも自然が先程行われた惨劇に恐怖にかられて立ちすくんでしまったかのようであった。ピーターは子供達に、自分がタイガー・リリーとティンカー・ベルから教わった森の知恵を教え込んでいた。そして子供達は悲惨な目に遭いながらも、このことを忘れないであろうことを確信していた。スライトリーは、もしそうする機会さえあれば、木に刻み目を付けて印を残していったであろう。カーリーなら、種を落として行くに違いない。ウェンディなら、重要な地点にハンカチを残しておくだろう。これらの手掛りを求めるためには、朝になるまで待つ必要があった。しかしピーターには待っていることは出来なかった。上の世界は彼に呼び掛けを行ったが、助けの手は差し伸べてくれなかった。
 鰐がピーターの傍らを通り過ぎた。他には生き物の気配はなく、音を立てるものも、身動きするものも無かった。けれどもピーターには、突然の死をもたらすものが次の木のところで待ち受けているか、あるいは彼の背後から忍び寄ってくるか良く分かっていた。
 ピーターは恐ろしい誓いを立てた。「今度ばかりは、フックが死ぬか、僕が死ぬかだ。」
 ピーターは、蛇のように這って進み、また立ち上がって歩き、今度は月光が戯れる空き地を、指を唇に当て、短剣を握り締めて疾走した。ピーターは、この上なく幸せな気持ちだった。

 「死ぬのはフックか、僕のどちらかだ。」この台詞がピーターに焦点を当てて語られているところが、本作品の悲劇的結末を予期するものである。そして重大なカタストロフィとなる生死を決する最後の戦いも、ピーターにとってはスリルで一杯の楽しいゲームに過ぎない。

用語メモ
 nature:「自然」は女神の姿で擬人化される。
 lore:「知識」、「知恵」である。古より語り伝えられ、受け継がれるべき文化と伝統を支える、世界の真実と個々の現在を結び付ける技法の体系である。これが世界から失われた時、ファンタシーに対する必要が生じた。
 blaze:切り込みを入れて、印を付けることを言う。“score”も同様に刻み目を付けて数を記録する動作のことであった。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp



◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開




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