Archive for 07 May 2006

07 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 172


172(5月7日)
Chapter 14
THE PIRATE SHIP

 One green light squinting over Kidd's Creek, which is near the mouth of the pirate river, marked where the brig, the JOLLY ROGER, lay, low in the water; a rakish-looking craft foul to the hull, every beam in her detestable, like ground strewn with mangled feathers. She was the cannibal of the seas, and scarce needed that watchful eye, for she floated immune in the horror of her name.
 She was wrapped in the blanket of night, through which no sound from her could have reached the shore. There was little sound, and none agreeable save the whir of the ship's sewing machine at which Smee sat, ever industrious and obliging, the essence of the commonplace, pathetic Smee. I know not why he was so infinitely pathetic, unless it were because he was so pathetically unaware of it; but even strong men had to turn hastily from looking at him, and more than once on summer evenings he had touched the fount of Hook's tears and made it flow. Of this, as of almost everything else, Smee was quite unconscious.
 A few of the pirates leant over the bulwarks, drinking in the miasma of the night; others sprawled by barrels over games of dice and cards; and the exhausted four who had carried the little house lay prone on the deck, where even in their sleep they rolled skillfully to this side or that out of Hook's reach, lest he should claw them mechanically in passing.

 パイレーツ・リバーの河口の辺り、キッズ・クリークの上に灯された緑の灯りが、海賊船ジョリー・ロジャー号が深々と船体を沈めて浮かんでいる位置を示していた。これはいかにも速度の出そうなブリッグ船だが、船体にまで海藻がからまり、甲板の端から端まで血まみれの羽を撒き散らされたように、おぞましく汚れていた。この船は海を走る食人種であり、殆ど見張りを立てる必要も無かった。この船の名前がもたらす恐怖が、何物をも寄せつけぬ守りとなっていたからである。
 今ジョリー・ロジャー号は、漆黒の闇に包まれていた。この暗黒を通して岸辺に届く物音は無かったであろう。実際船では、僅かな物音しか立てられてはいなかった。しかしスミーが動かしているミシンの音を除いて、耳に心地よいものは一つも無かった。常に勤勉で、協力的な、凡庸さの鑑とも言うべき、哀愁に満ちた男スミー。私には、どうしてこの男がこれほどまでに哀愁に満ちているのか、彼が自身の漂わせている哀愁に哀れを誘うほど無自覚であるからであるという理由を除いて、全く説明のしようがない。けれども心の堅固な者さえもが、彼の姿から目を背けなければならなかった。そして一度ならず、夏の宵などには、スミーの姿はフックの心の琴線に触れて、この海賊の目に涙を溢れさせたのである。しかしこの事実について、他の全ての事柄と同様、スミーは全く気付くことは無かった。
 数人の海賊達は舷側に身を乗り出して、夜の障気に身を浸らせていた。また幾人かの者達は、樽の傍らに体を投げ出して、骰子や札の遊びに興じていた。そして子供達の小さな家を担いできて疲れきった四人は、甲板の上で腹這いに横たわっていた。しかし眠りに落ちていてさえも、彼等は巧みに身を左右に動かして、通りすがりにフックが無意識に彼等を鍵の餌食にしてしまわないように、身を避けているのであった。

 激烈な反逆者であるフックの手下の中に、首領のフックとは正反対の性向を備えた分極的存在であるスミーがいる。反抗者の対立項であるこの男は、海賊に似ず勤勉で、従順で、周囲に協力的なのである。しかしスミーは自分のそのような特異性に全く気付くことは無い。自意識のパラドクスをフックが体現しているとするならば、無意識のパラドクスをスミーが体現していることになる。いずれにせよ、スミーの場合は、フックという存在の影以外の何物でもない。
 海賊達はフックの暴力と残忍さを当然の初期条件として受け入れ、船では無差別的殺戮が常態化している。フックの残虐さは美学上の条件として、全面的に承認されたものとなっているのである。

用語メモ
 rakish:(船の艤装において)速度が出そうな
 hull(船体):船底や帆の部分と区別して船の胴体の部分のこと。
 foul:海事用語で、船底などに貝や海草類が付着した状態をいう。
 beam:船の甲板を支える船材。船幅を反映する。




◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



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◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
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◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
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