Archive for 08 May 2006

08 May

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 173


 Hook trod the deck in thought. O man unfathomable. It was his hour of triumph. Peter had been removed for ever from his path, and all the other boys were in the brig, about to walk the plank. It was his grimmest deed since the days when he had brought Barbecue to heel; and knowing as we do how vain a tabernacle is man, could we be surprised had he now paced the deck unsteadily, bellied out by the winds of his success?
 But there was no elation in his gait, which kept pace with the action of his sombre mind. Hook was profoundly dejected.
 He was often thus when communing with himself on board ship in the quietude of the night. It was because he was so terribly alone. This inscrutable man never felt more alone than when surrounded by his dogs. They were socially inferior to him.

 フックは深い思いに沈んで甲板をさまよっていた。測り知れない男、フック。今こそ彼の勝利の時であった。ピーターという障害は彼の途上から永遠に取り払われ、他の少年達は全員捕虜となって海賊船に運ばれ、板歩きの刑に処せられようとしている。これは以前にバーベキュー船長を退散させた時以来の、フックの成し遂げる最も凶悪な事業であった。そして人間という存在がいかにはかないものでしかないかを知っていれば、フックが今自分の成功に酔いしれて、足取りもあやしく甲板の上を歩いていても、何も驚くにはあたらなかった。
 けれどもフックの足つきには、心の高揚の跡形も見受けられなかった。フックの暗い心が足つきにも現れていた。フックは深い憂鬱にとらわれていたのである。
 フックは、海賊船で夜の静寂に包まれて自分自身の心を問い直している時に、しばしばこのような状態に陥った。それは、彼がどうしようもなく孤独であったからであある。この測り知れない男は、手下共に囲まれている時ほど、孤独の思いに捕われることは無かった。彼等は、社会的にずっと劣った者達だったのである。

 上の文中で、「測り知れない」という意味の言葉が二つ用いられている。これらはピーターの存在の測り知れない謎(riddle)と呼応して語られているものである。これらのキーワードを接点として、ピーターとフックが表裏一体の関係で繋がっていることが分かる。
 もう一つ、ピーターとの対照をなすべきフックの存在の謎を解明する糸口として、“憂鬱”という主題が言及されている。このお話に物語られている全ての事柄の始動因たるこの感覚の持ち主として、この物語の本来の主人公がフックであることは明らかである。

用語メモ
 unfathomable(測り知れない):“fathom”は、動詞では船から錘りを投げ落として水深を測る行為のことを言う。名詞ならば“水深”である。それを推し量ることが不可能であることから、文字通り“測り知れない”の意味となる。
 inscrutable(測り知れない):“scrutiny”で“詮索する”、“吟味する”という動詞である。その否定は“調べようがない”、“詮索を寄せつけない”の意となる。





◆和洋女子大学公開講座のお知らせ
 作品講読「ピーターとウェンディ」(Peter and Wendy)を読む

◇  教室が決まりました。西館の3Fにある第2コンピュータ室で開催の予定です。コンピュータの使い方をご存じの方は、当日お伝えするユーザー名とパスワードを用いてログインし、インターネットに接続することができます。“Daily Lecture”等の公開中のファイルを開いて、講座のテキストとして御覧になれます。ワードを起動して自分でメモ等を作成することもできます。データ保存のためのフロッピー・ディスクあるいはフラッシュメディアをご持参下さい。
 この機会にコンピュータやインターネットを試してみたいという方は、早めにお出で下されば使い方の説明を致します。

◇第1回目が連休の最中という、大変な日程で組まれていることが分かりました。初回欠席でも、受講には差し障りありません。2回目以降好きな時に出席して頂いて結構です。講座は4回連続ですが、毎回の講義内容は、その場の状況に合わせて随時工夫していく予定ですので、出席は単発でも構わないのです。当日の受講受付もできます。
 コンピュータの利用に親しんでいる方は、テキストを購入しなくても教室でインターネットに繋いで、物語の本文を参照することができます。コンピュータに不馴れな方のためには、書物のテキストを用意してあります。講座は2時から開始ですが、1時頃には講師は来ておりますので、質疑応答等行えます。
 あらかじめ、物語のどの部分を読んでみたいか、あるいはこのお話の解釈について疑問を感じる点等を用意しておいて頂ければ、これに対する解説として講義を行って行きます。
 対訳を作成してありますので、翻訳上の疑問点等をご指摘頂ければ、「意訳」の工夫などを話題にすることもできます。

5月の毎週土曜日:5月6日、5月13日、5月20日、5月27日の4回、
2時から開催です。

連絡先:和洋女子大学 渉外課  047-371-1473

◇内容
 “ピーター・パン”の物語として有名な、『ピーターとウェンディ』を原文で読みます。実はあまり良く知られていない原作の哲学的な主題を、英語表現の鑑賞に気を配りながら読みとって行きます。4回という限られた回数で作品の全体像を把握するために、読解上の注釈を施したテキストを用意しました。インターネットで公開中の対訳とメモを活用し、質疑応答を通して要点を押さえながら、読解の作業を進めていきたいと思います。
 主題としては、意識内世界としてのネバーランドという場所、個人の内面心理を形成する疑似人格的要素としてのピーターとフックという人物像等について考察することにより、“世界”と“自己”という概念に対する再検証のあり方を試みるつもりです。これがファンタシー文学一般の中心的主題と考えられるものなのです。
 (インターネットの利用、コンピュータの操作等ができなくとも、受講には差し支えありません。)



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しました。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
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◇18年度開講中の各講座のトピックを開設しました。
 受講生以外の外部の方も御覧になれます。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

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