Archive for 01 June 2006

01 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 197


 "Seventeen," Slightly sang out; but he was not quite correct in his figures. Fifteen paid the penalty for their crimes that night; but two reached the shore: Starkey to be captured by the redskins, who made him nurse for all their papooses, a melancholy come-down for a pirate; and Smee, who henceforth wandered about the world in his spectacles, making a precarious living by saying he was the only man that Jas. Hook had feared.
 Wendy, of course, had stood by taking no part in the fight, though watching Peter with glistening eyes; but now that all was over she became prominent again. She praised them equally, and shuddered delightfully when Michael showed her the place where he had killed one; and then she took them into Hook's cabin and pointed to his watch which was hanging on a nail. It said "half-past one!"
 The lateness of the hour was almost the biggest thing of all. She got them to bed in the pirates' bunks pretty quickly, you may be sure; all but Peter, who strutted up and down on the deck, until at last he fell asleep by the side of Long Tom. He had one of his dreams that night, and cried in his sleep for a long time, and Wendy held him tightly.

 「17人目、」スライトリーが叫んだ。しかし彼の勘定は正確ではなかった。この夜、15人の海賊はこれまでの悪行の酬いを受けた。しかし2人は、岸にたどり着いたのである。スターキーはインディアンに捕らえられ、赤ん坊のお守をさせられることとなった。海賊としては、憂鬱な転落人生であった。そしてスミーは、この後世界を眼鏡姿のまま放浪し、ジャス・フックによって恐れられた唯一の男として名乗りながら、寄る辺の無い暮らしをしていくこととなった。
 勿論ウェンディはこの戦いには加わることなく、踏み止まっていた。ただ目を輝かせながら、ピーターの姿を追っていたのである。しかし全てが決した時には、再び場面の中心に進み出た。ウェンディは子供達の一人一人を賞賛し、マイケルが自分が海賊を殺した場所を示した際には、嬉しそうに身震いした。それからウェンディは子供達をフック船長の船室へと連れて行き、釘に掛かっていたフックの時計を指差した。時計は1時半を示していた。
 なによりも重大だったのは、時刻の遅さだった。勿論ウェンディは、急いで子供達を海賊船の船員用寝台のところに連れて行った。しかしピーターだけは甲板の上を意気揚々と歩き回り、大砲の傍らでようやく眠りに落ちた。ピーターはこの晩も、いつもの夢を見た。そして夢の中で長いこと泣き続けたピーターを、ウェンディはしっかり胸に抱き締めてやった。

 生き残ったスミーに関する叙述が興味深い。彼はこうしてフックの名を受け継ぐものとなるのである。丁度フック自身が、バーベキュー船長や黒髭船長達伝説的存在との関わりから、仮構的存在としての新たなアイデンティティを獲得したのと同様の手順だからである。ひょっとしたらこのスミーは、新たなるフックの影の生成であるかもしれない。
 ここでも、子供達の犯した残虐行為が明らかに語られている。小市民的なダーリング氏の最年少の子供のマイケルさえもが、殺人という兇行を実際に犯してしまっているのである。
 このお話においてはウェンディだけは、メイク・ビリーブの遊戯には参加しながらも、戦闘や殺人という凶行に加わることはない。映画『ピーター・パン』(2004年、アメリカ)におけるウェンディが、まがまがしい海賊のお話を自ら弟達に物語り、そして残虐な戦闘にも積極的に関与していることは、この映画独特の解釈におけるアレンジなのである。

用語メモ
 いつもの夢:この一節の最後の箇所において、ピーターという存在の救済の道が永久に閉ざされてしまったことが分る。悪漢を倒すことによって得られる平安や歓喜などというものは、実は存在しないのである。ピーターという存在に内在する欠如と歪みが、彼を常に脅かす夢の来訪として語られている。


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