Archive for 10 June 2006

10 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 206


 You may be sure she begged his pardon; and then, feeling drowsy, he curled round in the kennel.
 "Won't you play me to sleep," he asked, "on the nursery piano?" and as she was crossing to the day-nursery he added thoughtlessly, "And shut that window. I feel a draught."
 "O George, never ask me to do that. The window must always be left open for them, always, always."
 Now it was his turn to beg her pardon; and she went into the day-nursery and played, and soon he was asleep; and while he slept, Wendy and John and Michael flew into the room.
 Oh no. We have written it so, because that was the charming arrangement planned by them before we left the ship; but something must have happened since then, for it is not they who have flown in, it is Peter and Tinker Bell.
 Peter's first words tell all.
 "Quick Tink," he whispered, "close the window; bar it! That's right. Now you and I must get away by the door; and when Wendy comes she will think her mother has barred her out; and she will have to go back with me."

 勿論こう言ってしまった後で、ダーリング夫人は夫に失礼を詫びたのだった。そして眠くなったダーリング氏は、犬小屋の中で体を丸くした。
 「ぐっすり眠れるまで、ピアノを弾いてくれないか、」ダーリング氏は、妻に頼んだ。「子供部屋のピアノで頼むよ。」そしてダーリング夫人がピアノの部屋に入るところで、ダーリング氏はうっかり言ってしまった。「それから窓も閉めておいてくれないか、隙間風が入って来るんだ。」
 「お願い、ジョージ。それだけは言わないで。窓はいつも開けてなくちゃならないの。決して閉めてはいけないの。」
 今度は、ダーリング氏が妻に謝る番だった。ダーリング夫人が子供部屋に入ってピアノを弾き始めると、まもなくダーリング氏は眠りに落ちた。そして彼が眠っている間に、ウェンディとジョンとマイケルが部屋に飛び込んで来たのだった。
 いや、違う。確かにそう書いてしまったが、それは我々が船を離れる時に子供達がそのように決めていたからだ。しかしその後で、何か変更がなされたに違いない。何故ならば飛び込んで来たのは、ウェンディとジョンとマイケルではなく、ピーターとティンカー・ベルだったからだ。
 ピーターが最初に放った言葉が、全てを語っている。
 「急ぐんだ、ティンク。窓を閉めて、かんぬきをかけておけ。それでいい。ドアのところに下がって、待っていよう。ウェンディが帰って来たら、お母さんに閉め出されてしまったと思うに違いない。そうしたら、僕と一緒に戻るしかないんだ。」

 ダーリング夫人は、辛い体験から学んだ教訓を忠実に守り、指針とすべき揺らぐことの無い確信を得るに至っている。世の人々に忘れられた、純良な母親のみが守り伝える筈の真の知識とは、このような信仰のことなのだ。
 ここにも、作品世界の進行に対して語り手の及ぼす重大な影響力が影を落としている。語りと、語られた内容の偏差と、語られる物語と物語る語り手の属する次元界面の乖離を充分に意識した、極めて内省的な語りの手法である。

用語メモ
 “we have written it”:この言葉もやはりお話の一部として“書かれた”ものである。お話を書くことを書いたり、お話を語ることを語ったりするのはこのお話の特徴的傾向である。




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