Archive for 12 June 2006

12 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 208


 But the lady would not make the best of it, and he was unhappy. He ceased to look at her, but even then she would not let go of him. He skipped about and made funny faces, but when he stopped it was just as if she were inside him, knocking.
 "Oh, all right," he said at last, and gulped. Then he unbarred the window. "Come on, Tink," he cried, with a frightful sneer at the laws of nature; "we don't want any silly mothers"; and he flew away.
 Thus Wendy and John and Michael found the window open for them after all, which of course was more than they deserved. They alighted on the floor, quite unashamed of themselves, and the youngest one had already forgotten his home.
 "John," he said, looking around him doubtfully, "I think I have been here before."
 "Of course you have, you silly. There is your old bed."
 "So it is," Michael said, but not with much conviction.
 "I say," cried John, "the kennel!" and he dashed across to look into it.
 "Perhaps Nana is inside it," Wendy said.
 But John whistled. "Hullo," he said, "there's a man inside it."
 "It's father!" exclaimed Wendy.
 "Let me see father," Michael begged eagerly, and he took a good look. "He is not so big as the pirate I killed," he said with such frank disappointment that I am glad Mr. Darling was asleep; it would have been sad if those had been the first words he heard his little Michael say.

 しかしこのご夫人は、そこのところを飲み込んでくれようとはしないのだった。ピーターは楽しくなくなった。ピーターは、ダーリング夫人の姿から目をそらした。それでも、彼女はピーターのことを離してくれないのだった。ピーターは部屋の中を飛び跳ねて、おどけた顔をしてみた。しかし動きを止めてみると、何だかダーリング夫人が彼の体の内側から、胸を叩いているようだった。
 「分かったよ。」ピーターはとうとう言って、息を呑んだ。それからピーターは窓を開けた。「おいで、ティンク。」ピーターは叫んだ。そして自然の法則に対して、物凄い嘲りの表情を浮かべた。「お母さんなんて下らないものは、もういらないよ。」そして飛んでいってしまった。
 こうしてウェンディとジョンとマイケルは、窓が開いているのを見つけることとなった。それは、この子達には全くもったいないことだった。3人は、臆面もなく床の上に降り立った。一番下のマイケルなどは、もう自分の家を覚えてさえいなかった。
 マイケルは、訝しげに周囲を見回しながら言った。「ジョン、僕、前にもここに来たことがあるような気がするな。」
 「馬鹿だな。忘れたのか?これがお前のベッドじゃないか。」
 「そうだね。」マイケルは答えたが、あまり確信はなさそうだった。
 「あれは、犬小屋だ!」ジョンは叫んで、急いで部屋を横切って中を覗き込んだ。
 「たぶん、ナナが中にいるのよ。」ウェンディが言った。
 しかし、ジョンが口笛を鳴らした。「なんだ、こりゃ。人がいるよ。」
 「お父さんじゃないの!」ウェンディが叫んだ。
 「僕にもお父さん見せて。」興味津々で、マイケルが言った。そしてじっくり父親の姿を眺めた。「お父さんは、僕が殺した海賊ほど大きくはないな。」マイケルは失望の念を隠さずに言ったので、ダーリング氏が眠っていて本当によかったと思う。もしもダーリング氏が耳にしたマイケルの最初の言葉がこれであったなら、とても悲しいことであっただろう。

 子供たちの故郷への帰還は、ハピー・エンドを導く感動的な大団円となる訳ではない。むしろ失望と永遠の喪失感覚を確認するためにこそ、このエピローグは用意されているのである。

用語メモ
 laws of nature:整然とした規則正しい世界の運行手順である。あるがままの自然の具現化であった筈のピーターは、ここでは明らかに自然に背くものとしての基本属性を備えている。フックという本体の破滅による“天の邪鬼”の誕生であろうか。あるいはピーター本来の二律背反した対照的な属性のあらわれでもあろうか。





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