Archive for 14 June 2006

14 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 210


 And so when Mrs. Darling went back to the night-nursery to see if her husband was asleep, all the beds were occupied. The children waited for her cry of joy, but it did not come. She saw them, but she did not believe they were there. You see, she saw them in their beds so often in her dreams that she thought this was just the dream hanging around her still.
 She sat down in the chair by the fire, where in the old days she had nursed them.
 They could not understand this, and a cold fear fell upon all the three of them.
 "Mother!" Wendy cried.
 "That's Wendy," she said, but still she was sure it was the dream.
 "Mother!"
 "That's John," she said.
 "Mother!" cried Michael. He knew her now.
 "That's Michael," she said, and she stretched out her arms for the three little selfish children they would never envelop again. Yes, they did, they went round Wendy and John and Michael, who had slipped out of bed and run to her.
 "George, George!" she cried when she could speak; and Mr. Darling woke to share her bliss, and Nana came rushing in. There could not have been a lovelier sight; but there was none to see it except a little boy who was staring in at the window. He had had ecstasies innumerable that other children can never know; but he was looking through the window at the one joy from which he must be for ever barred.

 そういう訳でダーリング夫人が、夫が眠っているかどうか確かめに部屋に入ってきた時、3人の子共達はベッドに入っていた。子供達は、お母さんが喜びのあまり叫び声をあげるのを待ち構えた。しかし、ダーリング夫人は声をあげはしなかった。ダーリング夫人は子供たちの姿を目にはしたのだが、本当に彼らが戻ってきているとは、信じられなかったのだ。夢の中で何度も子供達がベッドにいるのを見てきたので、これもまだ夢の続きに違いないと思っていた。
 ダーリング夫人は、暖炉の脇の椅子に腰を掛けた。以前はこの椅子の上で子供たちを抱きしめたものだった。
 子供たちは、何が起こっているのか分からなかった。3人の背中に、ぞくっとするような冷たい感触が降りてきた。
 「お母さん!」ウェンディが叫んだ。
 「あれは、ウェンディの声ね、」ダーリング夫人は言った。しかし、まだ夢をみているのに違いないと思い込んでいた。
 「お母さん!」
 「これは、ジョンの声だわ。」ダーリング夫人がまた言った。
 「お母さん!」マイケルも叫んだ。ようやくお母さんの顔を思い出したのだ。
 「これは、マイケルの声だわ。」ダーリング夫人は、もう二度と抱き締めることのない3人のわがままな小さな子供たちの方に、両腕を差し伸べた。しかし彼女の腕は、子供たちを抱き締めることができたのだった。彼女の腕はウェンディの体に触れ、それからジョンに、それからベッドから飛び出して駆け寄ってきたマイケルの体に触れた。
 「ジョージ、ジョージ!」ダーリング夫人は、声を出すことができるようになると、夫を呼んだ。ダーリング氏も目を覚まして、妻の喜びに加わった。そして、ナナも飛び込んできた。これ以上素晴らしい光景はなかっただろう。しかしそれを目にするものは、窓のところでじっと見守っている一人の小さな男の子を除いて、一人もいなかった。この子は、他の子供たちが決して知ることのない数多くの歓喜を経験していた。しかし彼は今、自分には永遠に閉ざされている唯一の喜びを、窓越しに見つめているのだった。

 フックの身に起こった悲劇の結果もたらされたピーターの存在の秘密が、“ecstasy”と“joy”という言葉の対照を用いて語られている。

用語メモ
 ecstasy:“恍惚”と訳されることが多いが、神あるいは至高の真実との合一によって得られる精神の究極の歓喜のことである。ピーターには神的超越性が恩寵であるかのごとく与えられているが、一般の人間としての平凡な生の感覚は感受し得ないのである。これはひょっっとして、神性と人間性の分離の結果としてピーターの生成がなされたものであることを証する記述であるのかもしれない。




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