Archive for 16 June 2006

16 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 212


 "We could lie doubled up," said Nibs.
 "I always cut their hair myself," said Wendy.
 "George!" Mrs. Darling exclaimed, pained to see her dear one showing himself in such an unfavourable light.
 Then he burst into tears, and the truth came out. He was as glad to have them as she was, he said, but he thought they should have asked his consent as well as hers, instead of treating him as a cypher in his own house.
 "I don't think he is a cypher," Tootles cried instantly. "Do you think he is a cypher, Curly?"
 "No, I don't. Do you think he is a cypher, Slightly?"
 "Rather not. Twin, what do you think?"
 It turned out that not one of them thought him a cypher; and he was absurdly gratified, and said he would find space for them all in the drawing-room if they fitted in.
 "We'll fit in, sir," they assured him.
 "Then follow the leader," he cried gaily. "Mind you, I am not sure that we have a drawing-room, but we pretend we have, and it's all the same. Hoop la!"
 He went off dancing through the house, and they all cried "Hoop la!" and danced after him, searching for the drawing-room; and I forget whether they found it, but at any rate they found corners, and they all fitted in.

 「眠る時には、体を折り畳んで縮めるから。」
 「みんなの髪は、私が切るわ。」
 「ジョージ、」ダーリング夫人が叫んだ。愛する夫がこんな不親切そうな態度を演じるが、耐えられなくなったのだ。
 すると、ダーリング氏は泣き崩れた。そして真実が明らかになった。僕だってお母さんと同じように子供達を引き取ってやりたい、ダーリング氏は言うのだった。でもお母さんにお願いしたのと同じように、自分にもちゃんとお願いして欲しかった。あれではまるで僕はこの家の飾り物みたいだ。
 「僕は、お父さんが飾り物だなんて思ってないよ。」トゥートゥルズが即座に言った。「君は、お父さんが飾り物だと思うかい、カーリー?」
 「そんなことはない。君は、お父さんが飾り物だと思うかい、スライトリー?」
 「そんなことはないな。双子達、君達はどう思う?」
 子供達のうちの誰も、ダーリング氏のことを飾り物などと思っていないことが分かった。ダーリング氏は奇妙な程に嬉しがって、子供達に客間を使わせてあげよう、もし全員がうまく収まることができさえすれば、と約束した。
 「大丈夫です、うまく収まります。」子供達も約束した。
 「それでは、大将ごっこを始めるぞ。」ダーリング氏は、元気よく叫んだ。「いいか、この家には客間はないかもしれないが、あるような振りをするんだ。そうすれば、同じことだからな。そーれ!」
 ダーリング氏は、踊りながら家の中を進んでいった。子供達もみんなで「そーれ!」と叫んで、踊りながら客間を探して後に続いた。首尾よく彼等が客間を見つけることができたかどうかは、覚えていない。兎に角、全員が自分の居場所を見つけて、なんとか収まったのだった。

 ここでも、ダーリング氏の示す反応も実際に行う行動も、ピーターや他の子供達のそれと全く異なることがない。精神の根本的な本質においては大人と子供を区別する要素はないのである。ダーリング氏もやはり、自己の主観の中に埋没したメイク・ビリーブに従って生を送っている。

用語メモ
 cypher(形だけの飾り物):本来は数字の“0”のことである。位を示すだけで実質が無い。
 “follow the leader”(大将ごっこ):大将になった者の仕草を真似て、間違えたら罰を受けるというゲームである。




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