Archive for 17 June 2006

17 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 213


 As for Peter, he saw Wendy once again before he flew away. He did not exactly come to the window, but he brushed against it in passing so that she could open it if she liked and call to him. That is what she did.
 "Hullo, Wendy, good-bye," he said.
 "Oh dear, are you going away?"
 "Yes."
 "You don't feel, Peter," she said falteringly, "that you would like to say anything to my parents about a very sweet subject?"
 "No."
 "About me, Peter?"
 "No."
 Mrs. Darling came to the window, for at present she was keeping a sharp eye on Wendy. She told Peter that she had adopted all the other boys, and would like to adopt him also.
 "Would you send me to school?" he inquired craftily.
 "Yes."
 "And then to an office?"
 "I suppose so."
 "Soon I would be a man?"
 "Very soon."
 "I don't want to go to school and learn solemn things," he told her passionately. "I don't want to be a man. O Wendy's mother, if I was to wake up and feel there was a beard!"

 ピーターはというと、飛び去っていく前にもう一度だけウェンディと顔を合わせた。窓のところまで戻りはしなかったが、窓をかすめて飛んで、もしウェンディがその気になれば、窓を開けて彼に呼びかけられるようにしたのだ。ウェンディはその通りにした。
 「じゃあね、ウェンディ。さようなら。」ピーターは言った。
 「まあ、ピーター。行っちゃうの?」
 「そうだよ。」
 「ねえ、ピーター。お父さんとお母さんに言っておきたい、とても大事なことはない?」ウェンディは声を詰まらせながら言った。
 「ないよ。」
 「じゃあ、私には?」
 「ない。」
 ダーリング夫人も窓のところにやって来た。今はウェンディの方に鋭い目を向けていた。ダーリング夫人はピーターに他の子供達は全員自分の家に引き取ってあげたことを告げた。そしてピーターも同じように引き取ってあげたいと申し出た。
 「お母さんは、僕を学校に行かせるの?」抜け目無くピーターは尋ねた。
 「そうよ。」
 「それから、会社に行かせるの?」
 「そうね。」
 「そして僕は大人になってしまうんだ。」
 「そのうちね。」
 「僕は学校に行って難しいことなんか教わりたくない。」ピーターは息を荒げて答えた。「僕は大人になんかなりたくない。ウェンディのお母さん、目を覚ましたら、ひげが生えているのに気がつくなんて、僕は嫌だ。」

 改めてはっきりと、ピーターは大人になること、社会の一員になることを拒絶する。フックという存在の一部として、あるいはその対立項として、これは当然のことであろう。この判断は、彼が人の知らない秘密をあまりにも知り過ぎ、さらにまた人の知っている筈の事柄をあまりにも知らないことから生まれたものでもあろう。

用語メモ
 solemn things(難しいこと):現代の教養ある人間として身につけ、弁えることになる知識は、意識の主体にとってその精神の安寧と満足を覚えることが容易でなくなる、極めて苛酷なものであることを、ピーターだけは誰からも知らされることなく何故か理解しているのである。現代人が封印を解いてしまったおぞましい呪いを、この少年だけは身に浴びることを拒もうとするのである。




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