Archive for 18 June 2006

18 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 214


 "Peter," said Wendy the comforter, "I should love you in a beard"; and Mrs. Darling stretched out her arms to him, but he repulsed her.
 "Keep back, lady, no one is going to catch me and make me a man."
 "But where are you going to live?"
 "With Tink in the house we built for Wendy. The fairies are to put it high up among the tree tops where they sleep at nights."
 "How lovely," cried Wendy so longingly that Mrs. Darling tightened her grip.
 "I thought all the fairies were dead," Mrs. Darling said.
 "There are always a lot of young ones," explained Wendy, who was now quite an authority, "because you see when a new baby laughs for the first time a new fairy is born, and as there are always new babies there are always new fairies. They live in nests on the tops of trees; and the mauve ones are boys and the white ones are girls, and the blue ones are just little sillies who are not sure what they are."
"I shall have such fun," said Peter, with eye on Wendy.
"It will be rather lonely in the evening," she said, "sitting by the fire."
 "I shall have Tink."
 "Tink can't go a twentieth part of the way round," she reminded him a little tartly.
 "Sneaky tell-tale!" Tink called out from somewhere round the corner.
 "It doesn't matter," Peter said.
 "O Peter, you know it matters."
 "Well, then, come with me to the little house."
 "May I, mummy?"
 "Certainly not. I have got you home again, and I mean to keep you."
 "But he does so need a mother."
 "So do you, my love."

 「ピーター、」いつも助けの手を投げかけるウェンディが、口を出した。「ひげがあっても、あなたのこと大好きよ。」ダーリング夫人も、ピーターの方に両手を差し伸べた。しかしピーターは、お母さんを拒絶した。
 「やめて、おばさん。誰も僕を捕まえて、人間にすることはできない。」
 「でも、これからどこで暮らすの?」
 「ウェンディのために作ってやった家で、ティンクと一緒にくらすのさ。妖精達が家を木の梢のところまで持ち上げてくれる。妖精達は、夜は木の上で眠るんだ。」
 「素敵ね。」ウェンディが、あこがれの気持ちで一杯の目で叫んだので、ダーリング夫人は指に力を込めた。
 「妖精は、みんな死んでしまったと思っていたわ。」ダーリング夫人は言った。
 「いつも沢山新しく生まれてくるのよ。」ウェンディが説明した。もう妖精のことならだれより詳しかった。「何故ならね、新しく生まれた赤ちゃんが初めて笑うと、その時に妖精が生まれるの。いつも赤ちゃんは新しく生まれてくるから、妖精もいつも新しく生まれてくるのよ。妖精は木の上の巣の中で暮らしていて、紫色のは男の子で、白い色のは女の子なの。そして青色のは、まだ自分が男の子か女の子かよく分かっていない、ちょっと間抜けな子よ。」
 「僕はとっても楽しいことをするだろうな。」ピーターは、ウェンディの方に目を向けながら言った。
 「晩になると、ちょっと寂しいかもしれないわ。暖炉の脇で座っている時は。」ウェンディが答えた。
 「ティンクがいるさ。」
 「ティンクは、暖炉の周囲の二十分の一にもならないわ。」ウェンディは、ちょっと激しい口調で言った。
 「こそこそ悪口言わないで。」ティンクがどこか角の向うから叫んだ。
 「そんなこと、構わないさ。」ピーターが言った。
 「でも、それは問題でしょ。」
 「それじゃあ、僕と一緒においでよ。」
 「行っていい?お母さん?」
 「勿論駄目ですとも。ようやくあなたに戻ってきてもらったの。もう放しはしません。」
 「でも、ピーターにはお母さんが必要なの。」
 「あなたにもよ。ウェンディ。

 これまでのロマン主義的な、あるいは19世紀的な意味においては、ダーリング夫人の語るように、妖精達と彼等の代表する信仰は“死んでしまって”いる。次にウェンディが語るような新たな人間存在との関連を与えられなければ、「妖精」という観念的存在物の生き残る可能性は失われてしまう。そしてその存在論的メカニズムは、さらに高度に仮構的で非在性の色濃いものとならざるを得ないことだろう。古代から近代に至る歴史の進展の中で、人類の得た知性の向上と霊的属性の変化が、種々の神像の変化と新規の妖精解釈の手法の開拓と、そしてその廃棄の経過に反映されているのである。

用語メモ
 神格の変転:古代エジプトにおける時代の変化と共にもたらされた神の属性の変質、その後受け継がれた古代ギリシアにおける信仰のありかたと対象となる神像の変転、ユダヤ教という一神教の誕生とキリスト教における神の受肉という人間化の過程、近代ヨーロッパにおいて企図された内なる霊的属性としての精霊に対する信仰の回復とその機運の衰退等、信仰の対象である神は、信仰する人間の精神状況の変化を直裁に反映するものとなっている。



◆「ミクシィ」でコミュニティ「アンチ・ファンタシー」を開設しています。
◇「最後のユニコーン」に関するSue Matheson氏の論文の解説等を行っています。
◇アニメーション版「最後のユニコーン」における視覚表現についての解説を公開中です。
◇ピーター・ビーグルに関する書誌データを公開中です。
◇18年度に開講中の各講座のトピックを開設しました。受講生以外の一般の方も御覧になれます。書き込み等も歓迎です。

http://mixi.jp/view_community.pl?id=427647

参加希望の方は、以下のアドレスにご連絡下さい。招待メールをお送りします。

kuroda@wayo.ac.jp


◆メインページurl http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/

◇スピーチ:“ウェストサイド・ストーリー”
 音声実況データをアップロードしました。

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシーII:ユニバーサル、ユニコーン―『最後のユニコーン』におけるユニコーンの存在論的指標”を新規公開中
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/universal.htm

◇論文、“アンチ・ファンタシーというファンタシー(15):レッド・ブル―無知と盲目の影”を新規公開
http://www.linkclub.or.jp/~mac-kuro/anti/shadow.htm










00:00:00 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks