Archive for 20 June 2006

20 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 216


 Of course all the boys went to school; and most of them got into Class III, but Slightly was put first into Class IV and then into Class V. Class I is the top class. Before they had attended school a week they saw what goats they had been not to remain on the island; but it was too late now, and soon they settled down to being as ordinary as you or me or Jenkins minor. It is sad to have to say that the power to fly gradually left them. At first Nana tied their feet to the bed-posts so that they should not fly away in the night; and one of their diversions by day was to pretend to fall off buses; but by and by they ceased to tug at their bonds in bed, and found that they hurt themselves when they let go of the bus. In time they could not even fly after their hats. Want of practice, they called it; but what it really meant was that they no longer believed.
 Michael believed longer than the other boys, though they jeered at him; so he was with Wendy when Peter came for her at the end of the first year. She flew away with Peter in the frock she had woven from leaves and berries in the Neverland, and her one fear was that he might notice how short it had become; but he never noticed, he had so much to say about himself.

 勿論、子供達は全員学校に行くことになった。ほとんどの者は、3等クラスに編入された。しかしスライトリーは、最初は4等クラスに、それから5等クラスに移された。1等クラスが一番出来のよいクラスだ。学校に通うようになって一週間も経たないうちに、島に残らなかったのはなんて愚か者だったと誰もが思った。しかし今となっては、手遅れだった。そしてまもなく全員が、君や私やジェンキンズ君と同じように、すっかり普通の子になってしまった。飛ぶ力が彼等のもとからだんだんと失われてしまったことを語らなければならないのは、悲しいことだ。最初ナナは、夜の間に子供達が飛んで行ってしまうことのないように、彼等の足をベッドの柵に縛り付けたのだった。昼の間に子供達がよく行った遊びは、バスから転がり落ちる振りをすることだった。そうするうちに、ベッドから体が浮き上がることもなくなってきた。バスから転がり落ちた時には、本当に痛い思いをすることに気がついた。まもなく、風に帽子を飛ばされた時でさえ、ついて行くことができなくなってしまった。練習が足りないせいだ、と彼等は語った。しかしこの言葉が本当に意味していたのは、彼等にはもう信じることができなくなった、ということだった。
 マイケルは、皆には笑われてしまったが、他の子供達よりも長く信じ続けていた。だからピーターが最初の一年が終わりになる頃ウェンディのもとを訪れた時、マイケルもウェンディ一緒に待っていた。ウェンディは、ネバーランドにいた頃に作った木の葉と草の実の外套を着て、ピーターと一緒に飛んで行った。ウェンディが気になったのは、この衣服がとても短くなってしまったことにピーターが気付きはしないかということだった。しかしピーターが気がつくことはなかった。自分のことばかり語るのに夢中だったのだ。

 現実世界への帰還と共に、子供達の空を飛ぶ能力は失われて行き、かつての記憶さえもあやふやなものになってくる。これはむしろネバーランドという心の世界と現実の意識の断絶を語るものであるというより、自然な連関を証するものであるかもしれない。しかしその連関は忘却と衰退という非可逆的な喪失感覚を確証するものでしかない。

用語メモ
 goat:口語表現で“ばか”、“とんま”を意味する。“sheep”が従順な神の僕であるキリスト教徒を呼ぶ言葉であったのに対して、“山羊”は常に異境的な悪魔的イメージを担う言葉であった。ピーター・パンの“パン”という名が暗示していたギリシア神話の笛を手にした半獣神パンは、山羊の下半身を持っていたとされる。




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