Archive for 21 June 2006

21 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 217


 She had looked forward to thrilling talks with him about old times, but new adventures had crowded the old ones from his mind.
 "Who is Captain Hook?" he asked with interest when she spoke of the arch enemy.
 "Don't you remember," she asked, amazed, "how you killed him and saved all our lives?"
 "I forget them after I kill them," he replied carelessly.
 When she expressed a doubtful hope that Tinker Bell would be glad to see her he said, "Who is Tinker Bell?"
 "O Peter," she said, shocked; but even when she explained he could not remember.
 "There are such a lot of them," he said. "I expect she is no more."
 I expect he was right, for fairies don't live long, but they are so little that a short time seems a good while to them.
 Wendy was pained too to find that the past year was but as yesterday to Peter; it had seemed such a long year of waiting to her. But he was exactly as fascinating as ever, and they had a lovely spring cleaning in the little house on the tree tops.
 Next year he did not come for her. She waited in a new frock because the old one simply would not meet; but he never came.
 "Perhaps he is ill," Michael said.
 "You know he is never ill."
 Michael came close to her and whispered, with a shiver, "Perhaps there is no such person, Wendy!" and then Wendy would have cried if Michael had not been crying.

 ウェンディは、以前二人の行った冒険について、わくわくするようなお話をピーターと共に語り合えるものと期待していた。しかし新しく経験した冒険が、彼の古い記憶を覆い隠していた。
 「フック船長って、誰だい?」ウェンディが彼の仇敵のことを語った時、ピーターは大いに興味を示して尋ねたのだった。
 「覚えていないの?」ウェンディは、愕然として聞き返した。「フック船長を殺して、私たちみんなを助けてくれたでしょう?」
 「僕は、殺した奴らのことは忘れてしまうんだ。」ピーターは関心なさそうに答えた。
 ティンカー・ベルがもう一度ウェンディーに会って、喜んでくれるかしら、とウェンディが心配そうに言った時、ピーターは言ったのだった。「ティンカー・ベルって、誰だい?」
 「まあ、ピーター」ウェンディは、唖然として声をあげた。しかしピーターは、ウェンディがティンクのことを説明しても、思い出すことができないのだった。
 「妖精は、とても数が多いからね。」ピーターは言った。「多分、ティンクは、もういないんじゃないかな。」
 たぶん、ピーターの言う通りなのだと思う。妖精というのは、あまり長生きはしないからだ。けれども彼等はあまりに体が小さいので、短い期間でも彼等には随分長い時間に感じられるのだ。
 ウェンディは、去年のことがピーターにはほんの昨日のことのようにしか思えないらしいのに気がついて、胸が苦しくなってしまった。彼女には、この一年間がとても長く感じられたのだ。
 けれどもピーター自身は、以前と全く変わらず魅力的だった。二人は木の上の小さな家で、この上なく素敵な大掃除をすることができた。
 次の年は、ピーターはウェンディのもとに来ることはなかった。ウェンディは、新しい外套を着てピーターを待っていた。以前のは、もう体に合わなくなっていたからだ。けれどもピーターは、姿を現すことはなかった。
 「病気になったんじゃないかな。」マイケルが言った。
 「ピーターは、病気にはならないわ。」
 マイケルは、ウェンディの方に体を近づけて、身震いをしながら囁いた。「きっと、ピーターなんて本当はいなかったんだよ。ウェンディ。」もしもマイケルが泣いていなかったら、ウェンディも泣き出してしまっていただろう。

 ピーターという存在の秘密がここに改めて語られている。このお話の主題自身は、フックという仇敵を倒すことによって完遂されるものではない。むしろここに描かれているエピローグの中にこそ、ピーターという存在の担っている人間精神の経験した大きな変質と関わる独特の意義性が語られているのである。

用語メモ
 forget:ピーターには記憶も内省も無いので、自身の被った変化に思いを及ぼすことは決してない。しかしピーターを離反させた人間精神は、痛切極まり無い喪失感覚を残すこととなる。




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