Archive for 24 June 2006

24 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 220


 Once a week Jane's nurse had her evening off; and then it was Wendy's part to put Jane to bed. That was the time for stories. It was Jane's invention to raise the sheet over her mother's head and her own, this making a tent, and in the awful darkness to whisper:
 "What do we see now?"
 "I don't think I see anything to-night," says Wendy, with a feeling that if Nana were here she would object to further conversation.
 "Yes, you do," says Jane, "you see when you were a little girl."
 "That is a long time ago, sweetheart," says Wendy. "Ah me, how time flies!"
 "Does it fly," asks the artful child, "the way you flew when you were a little girl?"
 "The way I flew? Do you know, Jane, I sometimes wonder whether I ever did really fly."
 "Yes, you did."
 "The dear old days when I could fly!"
 "Why can't you fly now, mother?"
 "Because I am grown up, dearest. When people grow up they forget the way."
 "Why do they forget the way?"
 "Because they are no longer gay and innocent and heartless. It is only the gay and innocent and heartless who can fly."
"What is gay and innocent and heartless? I do wish I were gay and innocent and heartless."

 一週間に一度、ジェーンの子守りは晩のお休みをもらった。その時は、ウェンディがジェーンを寝かせ付けることになっていた。この時が、ウェンディにお話をしてもらえる時だった。シーツを自分とお母さんの頭の上にかぶせてテントのようにして、暗がりの中で囁き合うことを思いついたのは、ジェーンだった。
 「今度は何が見えるの?」
 「今晩は、何も見えそうな気がしないわ。」ウェンディは答えたが、もしもナナがここにいたら、これ以上話を続けるのに反対するのではないかと感じていた。
 「本当は見えるのよ。」ジェーンが言った。「まだ小さい子だったら、見える筈よ。」
 「それはもう随分昔のことだわ。時が経つのは、なんて早いのかしら。」
 「飛ぶように早いの?」抜け目のない娘は尋ねた。「子供の頃空を飛んだ時と同じほど?」
 「私が空を飛んだですって?ジェーン、あなたはそのことを知っているの?私は時々、それが本当だったかどうか分からなくなるのに。」
 「そうよ。お母さんは空を飛んだのよ。」
 「あの頃が懐かしいわ。」
 「どうして今は、飛べなくなっちゃったの?」
 「それは、私が大人になったからよ。大人になると、飛び方を忘れてしまうものなの。」
 「どうして忘れてしまうの?」
 「それは、大人はもう陽気でも無垢でも無慈悲でもないからよ。飛ぶことができるのは、陽気で無垢で無慈悲なもの達だけなの。」
 「陽気で無垢で無慈悲って、どういうこと?私も陽気で無垢で無慈悲だったらいいな。」

 フックを支配していた内省のディレムマの構図が、裏返しの形で示されている。自分が無垢な存在であることを確信し、楽天的な展望を世界に対して抱くことのできる者は、自己充足的な、残酷で無慈悲な心性の持主でしかないことを暗示しているのである。20世紀を迎えた現代の人類が得た、一切の倫理的拘束からの解放と、その代償に認めざるを得なくなった、幻想を排した世界と自分自身の苛酷な実相である。

用語メモ
 heartless:文字通り“心を持たない”ことである。時に考えようもないほど残酷で、無慈悲な態度ともなり得る。しかしながら、あまりにも屈託が無いので、執着や妄念などとはほど遠い、子供特有の“無垢”な身勝手さのことである。




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