Archive for 25 June 2006

25 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 221


 Or perhaps Wendy admits she does see something.
 "I do believe," she says, "that it is this nursery."
 "I do believe it is," says Jane. "Go on."
 They are now embarked on the great adventure of the night when Peter flew in looking for his shadow.
 "The foolish fellow," says Wendy, "tried to stick it on with soap, and when he could not he cried, and that woke me, and I sewed it on for him."
 "You have missed a bit," interrupts Jane, who now knows the story better than her mother. "When you saw him sitting on the floor crying, what did you say?"
 "I sat up in bed and I said, `Boy, why are you crying?'"
 "Yes, that was it," says Jane, with a big breath.
 "And then he flew us all away to the Neverland and the fairies and the pirates and the redskins and the mermaid's lagoon, and the home under the ground, and the little house."
 "Yes! which did you like best of all?"
 "I think I liked the home under the ground best of all."
 "Yes, so do I. What was the last thing Peter ever said to you?"
 "The last thing he ever said to me was, `Just always be waiting for me, and then some night you will hear me crowing.'"
 "Yes,"
 "But, alas, he forgot all about me," Wendy said it with a smile. She was as grown up as that.
 "What did his crow sound like?" Jane asked one evening.
 "It was like this," Wendy said, trying to imitate Peter's crow.
 "No, it wasn't," Jane said gravely, "it was like this"; and she did it ever so much better than her mother.
 Wendy was a little startled. "My darling, how can you know?"
 "I often hear it when I am sleeping," Jane said.
 "Ah yes, many girls hear it when they are sleeping, but I was the only one who heard it awake."
 "Lucky you," said Jane.

 あるいはウェンディが、何かが見える、と答えたとしてみよう。
 「きっとこれは、この子供部屋ね。」ウェンディは言う。
 「私もそう思う。それから?」ジェーンも答える。
 二人はこうして、ピーターが影を探して飛び込んできた、あの夜のことを語り始める。
 「このお馬鹿さんはね、」ウェンディは言う。「はがれた影を、石鹸をぬって貼り付けようとしたの。そして、それがだめだと分かると泣き始めて、それで私は目を覚ましたの。それから、影を体に縫い付けてあげたのよ。」
 「ちょっと抜かしたわよ。」ジェーンが横から口を出す。今は母親よりずっとよく、このお話のことを知っているのだ。「ピーターが床に座り込んで泣いているのを見つけた時、お母さんは何て言ったの?」
 「私はベッドの上で体を起こして、『どうして泣いているの?』って聞いたんだわ。」
 「そうよ、その通り。」大きく息をついて、ジェーンが言う。
 「それからピーターは、私達をネバーランドに連れて行って、そこには妖精と海賊とインディアンがいて、人魚のいる珊瑚礁があって、地下の家と私の小さな家もあったの。」
 「そうよ。この中で何が一番好きだった?」
 「そうね、地下の家が一番好きだと思ったわ。」
 「私もよ。ピーターが最後にお母さんに言ったのは、どんなこと?」
 「ピーターが最後に私に言ったのは、『ずっと僕が来るのを待っているんだよ。いつか僕の笑い声が聞こえるから。』だったわ。」
 「そうね。」
 「でもピーターは、私のことなんかみんな忘れちゃったの。」ウェンディは、微笑みを浮かべながら言った。それほどまでにウェンディは、大人になってしまったのだ。
 「ピーターの笑い声は、どんな風だった?」
 「こんな感じよ。」ピーターの笑い声を真似てみながら、ウェンディが答えた。
 「ちょっと違うわ。」少し顔をしかめて、ジェーンが言った。「こんな風よ。」そしてジェーンは、母親よりもずっと巧みにピーターの声を真似てみせた。
 ウェンディは、少し驚いた。「まあ、ジェーン。どうして分かるの?」
 「眠っている時に、よく聞こえるもの。」ジェーンが言った。
 「そうね、沢山の女の子達が、眠っている時にピーターの笑い声を聞いたわ。でも、目覚めている時にあの声を聞いたのは、私だけだった。」
 「お母さん、良かったね。」ジェーンが言った。

 この場面では、先程記述されていたエピソードとは異なった機会の状況が描かれていると理解するのが“慣習的”な解釈であろうが、記述された物語世界の内容が分岐し、相反する別のストーリー展開が示唆されていると解釈するのも、やはり正しい読みの一つである。この物語は、“非在性の存在物”が存在したり、“相反する事柄が共に成立したり”するファンタシーなのである。

用語メモ
 fantasy:ファンタシーに対する定義の試みの一つに“あり得ないこととされている事柄が生起する様が語られている類いのお話”、というのがある。不可能性、あるいは非在性という条件を満足させる要素には、記述の手法にその効果を依存するものもある。




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