Archive for 26 June 2006

26 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 222


 And then one night came the tragedy. It was the spring of the year, and the story had been told for the night, and Jane was now asleep in her bed. Wendy was sitting on the floor, very close to the fire, so as to see to darn, for there was no other light in the nursery; and while she sat darning she heard a crow. Then the window blew open as of old, and Peter dropped in on the floor.
 He was exactly the same as ever, and Wendy saw at once that he still had all his first teeth.
 He was a little boy, and she was grown up. She huddled by the fire not daring to move, helpless and guilty, a big woman.
 "Hullo, Wendy," he said, not noticing any difference, for he was thinking chiefly of himself; and in the dim light her white dress might have been the nightgown in which he had seen her first.
 "Hullo, Peter," she replied faintly, squeezing herself as small as possible. Something inside her was crying Woman, Woman, let go of me."
 "Hullo, where is John?" he asked, suddenly missing the third bed.
 "John is not here now," she gasped.
 "Is Michael asleep?" he asked, with a careless glance at Jane.
 "Yes," she answered; and now she felt that she was untrue to Jane as well as to Peter.

 そしてある晩のこと、悲劇が訪れた。それは春の頃だった。晩のお話はもう語り終えられ、ジェーンはベッドの中で眠りに落ちていた。ウェンディは、縫い物がよく見えるように、暖炉のすぐそばで床に腰を降ろしていた。子供部屋には、他に灯りは無かった。その時、ウェンディには覚えのある笑い声が聞こえてきた。そして初めての時と同じように窓が開け放たれ、ピーターが床に降り立った。
 ピーターは、以前と全く変わっていなかった。ウェンディには一目で、ピーターの歯が一本も抜け替わっていないことが分かった。
 ピーターは小さな子供で、ウェンディは大人だった。ウェンディは暖炉の脇で体をすくめ、身動きさえしようとしなかった。手の施しようもなく罪深い、大人の女だった。
 「やあ、ウェンディ。」ピーターは、何の変化も感じ取ることなく言った。いつも自分のことしか考えていないからだ。この暗がりの中では、ウェンディの着ている白いドレスは、ピーターと最初に出会った晩の寝間着と同じように見えたかもしれない。
 「今晩わ、ピーター。」ウェンディはかすれた声で答えた。できるだけ体を小さくしようと、身をすくめていた。何かが彼女の体の中で叫んでいた。「女よ、私の中から出て行って。」
 「ジョンはどうしたの?」3つ目のベッドが無いのに突然気がついて、ピーターが尋ねた。
 「ジョンは、もうここにはいないの。」喘ぐようにして、ウェンディは答えた。
 「マイケルは、眠っているの?」何も気付かずにジェーンのベッドに目を向けながら、ピーターが聞いた。
 「そうよ。」ウェンディは答えた。そうしながら、ピーターだけでなくジェーンにも、とても悪いことをしているような思いを感じていた。

 ピーターという存在が、子供達の想念の中にのみ顕現する仮構的存在であったことが改めて語られてきたところで、この部分でのピーターの実質的で主体的な存在様態の描き方は、あるいは異質な感覚を与えるものであるかもしれない。願望や想起の対象となる客体であるべきものが実体化し、今度は主体として振る舞うことにより、メイク・ビリーブという行為の反転的現象の生成が可能となることを前提とした記述システムとして、ファンタシーという公理系が意図的に採用されていることを再確認しておくべきだろう。

用語メモ
 guilty:成長して大人になることそのものが、“罪のある”あるいは“罪を犯した”行為として語られている。裁判等の抗争や判定の手順の結果としてではなく、意識の主体自身の抱く率直な自覚として、大人になり女であることがピーターに対する“罪”として語られているのである。




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