Archive for 27 June 2006

27 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 223


 "That is not Michael," she said quickly, lest a judgment should fall on her.
 Peter looked. "Hullo, is it a new one?"
 "Yes."
 "Boy or girl?"
 "Girl."
 Now surely he would understand; but not a bit of it.
 "Peter," she said, faltering, "are you expecting me to fly away with you?"
 "Of course; that is why I have come." He added a little sternly, "Have you forgotten that this is spring cleaning time?"
 She knew it was useless to say that he had let many spring cleaning times pass.
 "I can't come," she said apologetically, "I have forgotten how to fly."
 "I'll soon teach you again."
 "O Peter, don't waste the fairy dust on me."
 She had risen; and now at last a fear assailed him. "What is it?" he cried, shrinking.
 "I will turn up the light," she said, "and then you can see for yourself."
 For almost the only time in his life that I know of, Peter was afraid. "Don't turn up the light," he cried.
 She let her hands play in the hair of the tragic boy. She was not a little girl heart-broken about him; she was a grown woman smiling at it all, but they were wet eyed smiles.
 Then she turned up the light, and Peter saw. He gave a cry of pain; and when the tall beautiful creature stooped to lift him in her arms he drew back sharply.

 「それはマイケルじゃないのよ。」ウェンディは急いで言った。審判が下されるのを怖れたのだ。
 ピーターは良く見てみた。「新しい子なの?」
 「そうよ。」
 「男の子、女の子?」
 「女の子よ。」
 今度こそ、ピーターも理解するだろう。しかし、全く当て外れだった。
 「ピーター、」ウェンディは、震える声で言った。「私に一緒に飛んで行って欲しいの?」
 「勿論さ。そのために来たんだから。」そしてピーターは、ちょっと厳しい声で付け加えた。「春の大掃除の頃になったんだよ。忘れたの?」
 ウェンディには、ピーターがもう暫く春の大掃除をすっぽかしていたことを告げても無駄なことが分かっていた。
 「私は行けないわ。」すまなそうにウェンディが言った。「もう飛び方を忘れちゃったもの。」
 「もう一度教えてあげるよ。」
 「ピーター、もう妖精の粉を振りかけても無駄なのよ。」
 ウェンディは立ち上がった。ようやくピーターの顔に畏怖の表情が走った。
 「どうしたの、これは?」体を縮めながらピーターが叫んだ。
 「灯りをつけるわね。そうしたらよく分かるわ。」
 私の知る限り、これまでで初めて、ピーターは本当の恐怖を感じた。「灯りをつけないで。」ピーターは叫んだ。
 ウェンディは両手を伸ばして、この哀れな少年の髪を撫でた。もうピーターに恋いこがれる少女ではなかった。こんな思い出に微笑みを浮かべる、大人の女であった。しかしその笑みは、涙を浮かべた笑みであった。
 それからウェンディは、灯りをつけた。そしてピーターは、ウェンディの姿を見た。苦しそうな叫びが発せられた。背の高い美しい女性が、身を屈め、彼を抱き上げようとすると、ピーターは素早く身を引いた。

 このお話の本当のクライマックスが語られている。人間の精神のもとに訪れた、かつてその一部であったものの永遠の喪失と、そこから離反したものを待ち受ける苛酷な運命である。

用語メモ
 judgement:最後の審判である。生涯になした一つ一つの行いの是非を厳重に問われるこの折に、ピーターに偽りを語ることになる素振りを示してしまうことが、許されざる罪であると判定されるであろうことを予期する痛切な思いが、ウェンディを捉えたのである。



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