Archive for 08 June 2006

08 June

Peter and Wendy 『ピーターとウェンディ』読解メモ 204


 On that eventful Thursday week, Mrs. Darling was in the night-nursery awaiting George's return home; a very sad-eyed woman. Now that we look at her closely and remember the gaiety of her in the old days, all gone now just because she has lost her babes, I find I won't be able to say nasty things about her after all. If she was too fond of her rubbishy children, she couldn't help it. Look at her in her chair, where she has fallen asleep. The corner of her mouth, where one looks first, is almost withered up. Her hand moves restlessly on her breast as if she had a pain there. Some like Peter best, and some like Wendy best, but I like her best. Suppose, to make her happy, we whisper to her in her sleep that the brats are coming back. They are really within two miles of the window now, and flying strong, but all we need whisper is that they are on the way. Let's.

 次の週にやって来た重大な木曜日、ダーリング夫人は子供部屋でジョージが帰宅するのを待っていた。その目はとても悲し気だった。今その姿を間近でよく見てみると、以前の活気に満ちた様子を思い起こしてみれば、子供達を失ったためにその片鱗も残されていないことは明らかなので、もう彼女についてひどいことなど語れそうにないような気がしてしまう。彼女が出来の悪い子供達を目にかけ過ぎたとしても、仕方のないことなのだろう。椅子に腰掛けたまま、彼女は眠りに落ちてしまっている。誰もが最初に目を向ける彼女の口許も、今はほとんど萎れ果ててしまっている。彼女の片手は落ち着きなく胸の辺りをさまよい、何か痛みでもあるかのようだ。ピーターが一番好きな人もいれば、ウェンディが一番好きな人もいる。でも私は、ダーリング夫人が一番好きだ。彼女を喜ばせてあげるために、餓鬼共が今戻って来ようとしていることを、夢の中で告げてあげるのはどうだろう。もう実際、窓まで後2マイルほどのところまで来ていて、元気に飛び続けているのだ。でも言ってあげる必要があるのは、子供達が戻って来つつあることだ。言ってあげよう。

 再びお話の作者が物語の前面にその姿を現して、作品世界の運行に重大な関与を示そうとする。殊にダーリング夫人との関わりにおいて作者のこのような側面が顕著になるのは、興味深い傾向というべきであろう。

用語メモ
 語り手(narrator):お話を語り進める“私”は、作中人物の一人であり語り手のパートを務める架空の一人物としての側面と、実際に今読者が読み進めつつある作品の著者である作者(author)の側面の双方を微妙に兼ね備えている。




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