Archive for 27 October 2011

27 October

2011学園祭公開授業テキスト2の続き


 立体造形作品であるフィギュアの中から人格規定的な特徴的付加条件を探索するならば、むしろキャラクターに特有の姿勢を挙げることができるだろう。殊にフィギュア作品では、彫刻と同様に独特のポーズに造形の要がかかっているといってもよい。例えば『化物語』の極めて印象的なツンデレ・キャラクターである戦場ヶ原ひたぎの場合では、彼女が戦闘の武器として用いた文房具であるカッターナイフとホッチキスを恫喝的にかざした姿勢がこれにあたる。可動式のフィギュアである“フィグマ”においても、ひたぎのこのポーズを再現することを予定して基本的な身体造形とパーツの作成がなされているように思われる。この姿勢と小道具はねんどろいど・ヴァージョンにおいても忠実に反映されている。
 しかしこの魅力的な被害妄想/加虐趣味のツンデレ美少女キャラクターのフィギュア造形作成例として最も記憶に鮮明なのは、ひたぎが高校校舎の階段上で一瞬阿良々木暦に対する戦意を喪失し、武装解除をして制服の中に隠されていた文房具の全てを床のうえに放擲した場面を、これらの小道具の細密表現を用いて見事にフィギュア化させた制作例である。作品世界の背景を巧妙に反映させて人格決定要素の造形化を図った典型的な成功例として評価することができるのが、[グッドスマイルカンパニー]制作の“化物語 戦場ヶ原ひたぎ 完成品フィギュア”である。立体造形においては“パンチラ”という概念は存在しない。下から覗き込めばパンツの姿が視認されることが当然だからである。この武装解除シーン・フィギュアにおいてもやはり気になるのは、ひたぎのスカートの下のパンツである。その造形と表象のプレゼンテーションの詳細を確認してみると、パンツの柄にも文房具パターンが施されており、戦場ヶ原ひたぎ属性を印象的に構築していることが確認できる。
 このフィギュア作品はスカートを取り外すことができる便利な仕様となっている。改めてパンツと文房具プリントの詳細を検証してみることとしよう。
 [パンツ画像]
 デザイン的にも非常に優れた文房具柄パンツであることが確認される。マックス・ファクトリー社製のフィグマ・シリーズにおいてもやはり、パンツの柄はホッチキスシルエットを強調した文房具柄が採用されているのである。
 [パンツ画像]
 この事実は別のフィギュア・シリーズ「ねんどろいど」においても同様に指摘できる。このようにホッチキス柄パンツは、フィギュア造形における戦場ヶ原ひたぎの人格同一性を決定する記号としての機能を果たしているのである。
 [パンツ画像]
上で確認した指摘内容を[アルター]制作の“化物語 戦場ヶ原ひたぎ 完成品フィギュア”の作例と比較してそれぞれのコンセプトの相違を検証してみることによって、フィギュア造形におけるポーズと小道具的背景要素の興味深い相関を確認することができるだろう。
 [パンツ画像]
 アルター版では背景の階段とその上に散乱した文房具は同様に採用されているものの、造形上のコンセプトはグッドスマイルカンパニー版とはまたひと味異なったものとなっている。しかし着用しているパンツ柄においては、アルター版においても同様に特有のホッチキスパターンが踏襲されていることが確認されるのである。
 これらの戦場ヶ原ひたぎフィギュア制作例と比較して同様の立体造形表現上の高い評価を下し得る創出例として、[コトブキヤ]制作の“化物語 戦場ヶ原ひたぎ 完成品フィギュア”を挙げることができる。これは実際の立体造形におけるキャラクター特性表現に関する工夫として、ひたぎに取り憑いた“重し蟹”をフィギュアの台座に配した、取り分け興味深い制作例なのである。
 ここで改めて問題としなければならないのは、戦場ヶ原ひたぎの“ひたぎ性”は果たして個物としての身体的延長範囲の本体に限られるのか、という点である。この蟹の爪の台座や先ほどの彼女の保有する武器であった文房具に加えて印象的なシーンを形成する背景を構築していた階段等の例が暗示するように、人格同一性と目されるものをさらに空間的に拡張した周辺環境にまで及んで理解すべきものであるかもしれないからである。“ベルの定理”を導出した光子対の観測実験の例が語るように、現象あるいは存在の“個物性”は、必ずしも古典力学が仮定したように単位粒子としての連続性という条件に拘束されるものではなく、むしろ離散的にその絡み合い的関係性による同一性を判断してよい場合が確かに存在するからである。このような不連続的同一性認定基準に従えば、憑依した怪異やキリスト教神話においてあらゆる人間個々に定められているとされる固有の守護天使や、さらにまた歴史的人物の固有人格を特定する不可欠の運命を担う事となった他の因縁的関係性において密接な役割を果たした別人格の各々もまた、ある意味で特定の一つの人格の影の部分としてその別次元の裏面を補完する規定要素として認め得ることとなるのである。西尾維新の原作『化物語』の主題として選ばれた“怪異”の秘める意義性がこの問題を照射するものであることと並んで、フィギュア造形上の人格同定に関わる特質は様々の同一性再考察の着眼点を提供してくれるものとなっている。ちなみにコトブキヤ版においても戦場ヶ原ひたぎの着用するパンツにはやはりホチキス柄が採用されている。
 [パンツ画像]
 
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2011学園祭公開授業テキスト1の続き


...ここに確認した諸事実は、それぞれの概念と現象体の集合間に通底するある種の共変的特質を抽出する可能性を暗示しているようにも思われる。つまり“ねんどろいど性”という全てのキャラクターに対して適用可能な一つの汎用属性があると仮定するならば、いかなるキャラクター原形に対しても一意的に変換記述あるいは変形操作を及ぼすことにより、“ねんどろいど化”という属性賦与が一連の操作結果として一意的になされることが期待できることになる。これはミクのねんどろいど・ヴァージョンが形成されたように、他の種々のキャラクターのねんどろいど・ヴァージョンを、人的な想像力の助けを借りることなく機械的な演算処理過程として自動的に生産する手順があり得ることを示すものなのである。さらに“ミク”属性と“ねんどろいど”属性が並列的な重ね合わせが可能な同一平面上の特質であり得るならば、“ねんどろいど性”あるいは“ミク性”等の属性規定要素は様々に他の概念への変換操作を適用することさえもが可能な“変数”として適用可能な値となるので、例えば“ねんどろいど”属性とさらに別種のドール製品群である“プーリップ”属性の交換を行い、“プーリップ・ミク”の創出を導くこともできることが予測される。その概念操作の実際の適用結果が以下のプーリップ・ミク・ドールである。
 プーリップ・ミク・ドールは、特徴的なツイン・テールの頭髪と忠実なコスチュームデザイン表現において初音ミク性を導入しながら、繊維質の頭髪とグラス・アイ等によって従来のプーリップ・ドールとしての同一性を堅固に維持してもいる。
 さらにプーリップ・ドールと形態的共通要素を持つがプーリップとはまた異なるもう一つのドール製品群である“ブライス”属性と“プーリップ”属性との交換あるいはミク属性とブライス属性の重畳を行い“ミク”属性との積を求めた結果として、“初音・ブライス・ミク”を提示する手順も同様に導かれることとなるであろう。この概念操作手順の適用結果が、既に実際に3DCGソフトを活用した作例として示されているのである。下は「3DCGコミュニティサイト」(http://www.cg-site.net)に公開されているヴァーチャル・フィギュアの作例である。
 “初音・ブライス・ミク”は、立体造形作品としての物理的実体を有することのない代わりに、縦軸・横軸方向に360度の回転を行って頭髪の隙間や衣服の裏側等の内部造形までをも仮想的に描像する機能を持つCGアートである。 この“ヴァーチャル・ミク” の表象は、3DCGデザインを行うコンピュータ・アプリケーションの段階的操作の結果生成したデータ加工の集積であるので、その手順を特定し一連のアルゴリズムとして抽出することが可能なものである。ここに仮定した変換操作アルゴリズムの存在を任意の現象物と属性に対して適用することによって、変換記述/生成の原理的照応を事物の存在と属性の連続体としてある宇宙の原型的基質 の裡に求める試行を想起するならば、コンセプチュアル・アートとメタフィクションの間にある同等性あるいは相違性等の概念の深層を考察することもまた可能になるに違いない。マックスファクトリー社/グッドスマイルカンパニー社とその他各社の現出せしめた総体としての初音ミク・フィギュア作品群は、存在物とその存在を規定するであろう概念・表象との相関に関わる、宇宙の原存在における意味局相と質料局相の事象発現以前の原形質次元における共変性を暗示する、システム法則性の照射試行の企図さえ窺わせる興味深い事例提示となっているのである。この形而上的発想のさらなる応用例として、“擬人化”表現の試行の展開例を万物照応的に敷衍することにより、例えば鯨ミク、烏賊ミク、ゴキブリミク等のキャラクター概念の様々な現象化が可能なことも暗示されている。原形質的初音ミクの発現形として条件・形質を網羅したマトリクスの展開を仮想するなら、現実存在人間ミク、宇宙人ミク、未来人ミク、エスパー・ミク等全ての項目に充当する初音ミクの存在が考え得るからである。参考に、ゴキブリの美少女擬人化の作例を挙げて、初音ミクゴキブリ化の作例に対するヒントとしておくことにしよう。
 こうして古代思想にあった生物相の空と陸と海におけるそれぞれの対応のみならず、万物の照応と相関における、コレスポンデンス(correspondence)の原理がホロスコープ的相関の行列として全宇宙的に反映されることが確認されることにより、あらゆる概念間の種々の関連性あるいは同等性が密接に裏付けられた“意味のある世界”を具現する見通し図の照射を図る企図を、フィギュア造形の中に読み取ることも可能になると思われる。
 このような形而上的概念抽出試行作業において最も興味深い作例と思われるものは、ねんどろいど・シリーズの一つとして、“マンガ作品『らきすた』の登場人物である柊かがみが初音ミクのコスプレをしている”ヴァージョンである。本体が“かがみ”であり、装われた人格表象として初音ミクが選択されたことが、ねんどろいど・フィギュアとして的確に具現化され得ている事実は、反転的に“かがみのコスプレをしている初音ミクのねんどろいど・ヴァージョン”のみならず、プーリップ・ヴァージョンやブライス・ヴァージョンその他の作例創出の可能性をも示唆するものだからである。この問題を敷衍すれば“狸に化けている狐”と“狐に化けている狸”の表象化における類似と相違の検証や、“羊と名乗る狼”と“狼と目される羊”等の概念的相関における表象の類似と相違、あるいは深層的意味次元における根幹的な同一性・相当性の認証という哲学的試行さえもが効果的に提示される展望が開けてくるであろう。
 この発想をマトリクス的に補填した実例として、実際にフィギュア製品界においては、ねんどろいど版に並んで “フィグマ版ミク・コスプレ柊かがみ”も既に製品として公開されている。
 初音ミクというフィギュア作品を対象にキャラクター同定上の指標となるべき要素としてミクのヴォーカロイド制服に確認したコスチューム、青緑色の極長ツインテールに確認した髪型、小道具としてのねぎに確認した後発的アタッチメント、さらに特有の印象を喚起する姿勢・ポーズ等があったことが確認され、これらが省略あるいは他の要素とそれぞれ置換され得るものでもあったことは、例えばさらなる新ミクヴァージョンの潜勢態として任意の空白の行列を補完することにより髪の色違い、目の色違い等の変化形のみならず“ヌード・ミク”、“巨乳ミク”、“スキンヘッド・ミク”等の創出可能性があることを暗示してもいる。さらにメイコ、カイト、鏡音リン/レン、巡音ルカ達との類似性あるいは相違性が方程式化されることにより、行列的な属性配置から網羅的な仮構表象的人格性の展開を図ることが可能となり、曼荼羅としてのキャラクター展開の可能性を考えるならば、キャラクターはその本性上“一個の他と分断し得る独立した存在”である以上に、“相互浸透し合う重ね合わせ可能な相矛盾する要素の集積体”として理解すべき概念なのであるかもしれないのである。
 初音ミクを対象に行ったこれまでの考察の結果を、『新世紀エヴァンゲリオン』の中心的キャラクターであるアスカとレイを対象にして応用的検証を試みることも可能である。惣流・アスカ・ラングレーと式波・アスカ・ラングレーの間に現出したはなはだ微妙な人格同一性に関する問題点は、実はアスカ自身とレイ自身についても指摘可能な事実だったのである。

18:37:30 | antifantasy2 | No comments | TrackBacks