Archive for October 2004

02 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 2


She was very old, though she did not know it, and she was no longer the careless color of sea foam, but rather the color of snow falling on a moonlit night.

 彼女は自分では知らなかったけれど、とても年をとっていました。ですからもう、海の波の泡のような無邪気な白さではなく、月に照らされた晩に降る雪のような色をしていました。

 ユニコーンは単に年をとっているだけではない。「老い」とはむしろ対照的な、生得的な特別な属性を示す概念として、この作品のなかでは“old”という言葉が独特な意味性を主張して語られていくことになる。
 “海の波の泡のような無邪気な白さ”の部分は、海の泡から生まれたとされるギリシア神話の美の女神アフロディーテを連想させる。本編におけるユニコーンは世界で最も美しい存在であるとされる。
 “月に照らされた晩に降る雪のような色”の部分では、予期に反した、飛躍したイメージになぞらえるという独特の比喩の手法が用いられている。既知のものになぞらえる常套的な比喩の効果を超越した効果を発揮する。

用語メモ
 キーワード“old”:ユニコーン以外にも“old”であるとされるものが他にもいくつか登場する。彼等に共通する独特の要素として、“old”という言葉の微妙な意味が定義づけられていくことになる。
 キーワード“poetic phrases”:作者の詩的な感覚は際立って優れたものであり、英語世界の様々な修辞法を駆使すると共に、独自の詩的表現のいくつかをも作品世界に導入している。

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01 October

The Last Unicorn 『最後のユニコーン』読解メモ 1

The unicorn lived in a lilac wood, and she lived all alone.

 ユニコーンはライラックの森の中で、彼女一人きりで暮らしていました。

 この物語の主人公であるユニコーンの性は女性として設定されている。伝説上のユニコーンが、その角が男根を象徴するものとされ、常に男性のイメージを担っており、処女の守神とされているのとは対照的である。男性原理を集約したかのような存在であるユニコーンが、女性原理を主張する文脈の中に描かれることになる。このような視点はファンタシー文学の思想的特質を如実に反映しているものであると思われる。またここに見るような諧謔的な価値観の転換は、この作品におけるアイロニーの発現の典型的な例であり、キーワードとして設定した“antifantasy”という概念と密接な関わりを持つものである。

用語メモ
 “antifantasy”: 一般的にファンタシーが保有する通念に敢えて逆行するような要素をこの言葉で呼ぶこととする。


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