Archive for 07 October 2015
07 October
佐倉セミナーハウステキスト 2回目 その2 Understanding the Universe
Understanding the Universe宇宙を理解する
James A. Putnam
The only things we believe exist in the universe are what information and intelligence tell us or suggest to us. It is only information and intelligence that we experience directly. Everything else is deduced by our intelligence using received information. The information we use always comes to us in mixed, very tiny, discontinuous bits carried by photons. The information is incomplete by virtue of its discontinuity. It is mixed by virtue of arriving in a storm of photons coming from a vast number of sources and directions. The information each photon delivers to us, in so far as physics knowledge is concerned, contains only information about distance and time. Photons are defined mechanically as the means by which electromagnetism causes changes of velocity. Physicists form their perspective about the universe by studying these changes of velocity.
我々がこの宇宙に存在すると信じるものとは、インフォメイションとインテリジェンスが語る、あるいは示唆してくれているものである。我々が直接に経験するものは、インフォメイションとインテリジェンスのみである。他のものは全て、受け取ったインフォメイションを用いて我々のインテリジェンスが推し量ったものである。我々が用いるインフォメイションは常に、光子によって運ばれた混雑した微小な不連続の欠片としてもたらされる。受け取られるインフォメイションは、その不連続性のために不完全なものである。インフォメイションは莫大な数の源から発せられ、あらゆる方角からやってくる光子の嵐としてもたらされるため、混雑したものである。各々の光子が我々に伝達するインフォメイションは、物理学の知識の知るところによれば、距離と時間に関わる情報を含むのみである。光子は、構造的には電磁波が速度の変化をもたらすその手段として定義づけられる。物理学者は宇宙の全体像に対する理解を、これらの速度の変化を研究することによって構築しているのである。
パトナムは科学者の理論を構築する素材となるものを、インフォメイションとインテリジェンスの二つに分類する。パトナムによってインフォメイションとして語られたものは、知覚を通して伝えられる直接的な刺激であり、それはつまるところ物理学的には、時間と距離に関する情報を伝える光子なのである。それに対してパトナムが“インテリジェンス”と呼ぶものが、この論文の哲学的位相を決定する鍵となる。
It is learned that something has moved a certain distance in a certain period of time. This single kind of observation forms the basis of all physics measurements. It is called velocity. We also learn the distance traveled in each period of time can vary. When this is the case, and when this variation is measured with respect to time, it is called acceleration. Acceleration is a measure of a change of velocity during a specified period of time. That is the origin and nature of all the knowledge with which physics is concerned. The complexity of physics knowledge is derived from the empirical observation that there are very many patterns in the way in which velocity changes with respect to time. The complete body of empirical knowledge supporting the science of physics is always knowledge about changes of velocity.
何物かが特定の距離を特定の時間を要して移動したことが検証される。この単純な観察が、全ての物理的計測の基盤を構築している。それは“速度”と呼ばれるものである。我々は部分的な時間の流れの区分において、その移動距離に変化があることを検証することができる。その場合には、そしてこの変化が時間に即して計測された場合には、その変化は“加速度”と呼ばれる。加速度とは、特定の時間枠において生起した速度の変化の計測結果である。それが、物理学が関与するあらゆる知識の根源であり、特質である。物理学の知識の複雑さは、速度が時間の流れに即して変化する様式が非常に多数存在するという、実際の観測結果から引き起こされる。科学として物理学を成り立たせている実証的な知識は全て、常に速度の変化に関する知見なのである。
パトナムは物理学を成立させる情報の本質を、速度に関する情報として還元的に理解する。それは真実と情報とその理解という哲学的な観点から物理学の成立基盤の再検証を図る試行を導くことになる。
Theoretical physics consists of mechanical, material interpretations of causes for changes of velocity. These mechanical interpretations are given the name force. It is observed that changes of velocity for different objects, due to the same force, vary. Each object has its own measure of resistance to force. The reasons for resistance to force are both unobservable and unknown. All higher-level physics theory consists of complex mechanical interpretations of force and resistance to force. The resistance to force is called mass. These interpretations are always educated guesses about the nature of causes and are representative of preferences of belief about the nature of the universe.
理論物理学は、速度の変化をもたらす原因の物質的・構造的解釈から成り立っている。これらの構造的解釈には“力”という名称が与えられている。等しい力が加えられた場合にも、異なった物体において速度の変化はそれぞれ異なることが観測されている。物体の各々がそれぞれなりの力に対する抵抗の度合いを持っているのである。この力に対する抵抗の原因は観測が不能であり、未知のものである。あらゆる高等物理学理論は、力と力に対する抵抗の機構の複合的な解釈から成り立っている。力に対する抵抗は“質量”と呼ばれる。これらの解釈は常に原因の特質に関する知的な推測であり、宇宙の特質に関するそれぞれの確信のあり方を示すものである。
パトナムは物理学理論として認められる自然解釈のあり方を、ニュートン力学の前提に当てはめて再確認する。そこには観測が可能なものと、観測不能であるために数学的公理のように論証不能な大前提として、科学における仮説の地位を占めているものとがある。
All knowledge is gained from information delivered by photons. All experience is facilitated by photons. Clearly they deliver far more important information than simple change of velocity. All communication, whether touch, smell, sight or sound, occurs by this same single means. Matter communicates by electromagnetic means. The result includes a change of velocity. Objects do change their velocities; however, we are still left with answering why objects respond beyond this simple mechanical reflex action. Why does any object in the universe do more than move?
あらゆる知識は光子によって伝達されたインフォメイションによって得られる。あらゆる経験は光子によって供給される。明らかに光子は単なる速度の変化以上の遥かに多くのインフォメイションを伝達する。触覚であろうが臭覚であろうが視覚であろうが聴覚であろうが、全ての情報伝達はこの唯一の手段を通して行われる。物質は電磁波という手段によって情報を伝達する。その結果が速度の変化を含むのである。物体は確かにその速度を変化させる。しかしながら我々はまだ、なぜ物体は単なる反射的行動以上の反応を示すのかについて問わねばならない。宇宙のいかなる物体も、なぜ運動する以上のことを行うのであろうか?
ニュートン力学は運動を記述することで宇宙の全てを把握したかのように見える。しかし我々の意識の受け止める様々な事象の与える印象や意味は、単なる運動の結果以上のものを明らかに含んでいる。我々の知覚や想念はどこからもたらされるのであろうか。
Changes of velocity cannot describe happiness, love and life. Yet our intelligence, depending solely upon photonic information, knows each of these intimately. The photons do not deliver intelligence. They deliver information. Our intelligence is internal. It is a part of that from which
we are assembled. It knows instinctively what to do with information. It makes sense out of very truncated, discontinuous, widely varying, and incredibly numerous bits of information coming to us at the speed of light. Intelligence is the means by which we are made able to discern meaning in the information delivered.
速度の変化が幸福や愛や生活を記述することはできない。しかし我々のインテリジェンスは、光子から得られた情報のみを手掛かりにして、これらについて精細に理解する。光子がインテリジェンスを伝える訳ではない。光子が伝えるのはインフォメイションである。我々のインテリジェンスは内的なものである。インテリジェンスは我々を構成するものの一部である。インテリジェンスは本能的に、インフォメイションをいかに扱うべきかを弁えている。インテリジェンスは、我々のもとに光速でもたらされる分断された不連続の偏差の大きい信じ難い程の多量のインフォメイションから、意味をつかみ取る。インテリジェンスは、我々が与えられたインフォメイションの中に意味を判別することを可能にする手段なのである。
宇宙を理解する能力を持つ知性と、その知性を部分構造として含む全体としての宇宙の本質は、決して分別し得ぬものであることをパトナムは論証していく。そこでパトナムが“インテリジェンス”と呼ぶものの機能と特質は、様々な科学的知見と哲学的課題の関連を効果的に示唆することになる。宇宙の全体性の姿を把握しようと試みる際に、“理性”という言葉で呼ばれるものがいかなる可能性と問題点を有しているかを、インフォメイションとインテリジェンスの対比が浮き彫りにすると思われる。
この論文の結論は以下のように語られている。
The answers about the nature of the universe are a part of us. Our intelligence gives us all of our answers. Any answers we will ever learn about the universe will be given to us by our own intelligence. Our full potential for understanding the operation of the universe is fully contained within our intelligence. Our potential for understanding ourselves is a part of understanding the universe. Since the universe came first, we can anticipate that we will understand ourselves when we understand the universe. However, it is our intelligence by which we are made able to understand the universe. Therefore, paradoxically, we may also anticipate that we will understand the universe when we understand ourselves.
宇宙の本質に関する解明は、我々自身の一部である。我々のインテリジェンスが、我々にとって解答となるものの全てを与えてくれる。我々が学ぶであろう宇宙の謎に関する解答は、我々自身のインテリジェンスによって我々にもたらされる。我々の宇宙の活動を理解する能力は、我々のインテリジェンスの中に全て含まれているものである。我々の我々自身を理解する能力は、宇宙に対する理解の一部である。宇宙の存在が我々に先立ってあることから、我々は宇宙に対する理解が得られた時に我々自身に対する理解も得られることを予見することができる。しかしながら我々が宇宙の本質を理解することができるようになるのは、我々のインテリジェンスによってなのである。従って、逆説的に、我々は我々自身に対する理解が得られた時、我々が宇宙の本質を理解することができると予測することができるのである。
物理学に関する思考を行う我々自身と、その思考の対象となる全てを含む宇宙が、実は個別に切り離しえない連続的なものであるという事実と、我々自身の尺度によってのみしか我々は思考の対象を捉えることができないという限界の双方が、“インテリジェンス”という言葉を用いて指摘されている。あたかも客観的な対象物として、自身との連続性を持たない外部に断絶されたものとして宇宙やその他様々の実験対象あるいは観測対象を理解しようとするあり方には、根本的な矛盾がある。パトナムは“理解”ということの本質を、その可能性と限界の双方を明確に指摘できる形で示してくれているのである。その理解が“外的”理解と“内的”理解の合一であるとされるところに、科学と哲学を結びつける要点と、様々な思想を再点検して物理学の検証を図る契機となるものが示されている。
23:21:15 |
antifantasy2 |
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